地上での成り行きを、ヴォータンは天上から見ております。
ヴォータンの見るところ、最強の剣ノートゥングを自分の力で手に入れたジークムントは、待望の英雄にふさわしいと思われました。二人の逃走に気づいたフンディングが軍勢とともに追い討ちをかけることは明らかなので、ヴォータンは9人のワルキューレの筆頭で最愛の娘でもあるブリュンヒルデを呼び、ジークムントに助太刀することを命じ、自らも出陣しようとします。
そこにヴォータンの妻フリッカが現れ、激しく夫を責めたてます。
フリッカは結婚を司る女神でもあり、正式の婚礼によって結ばれたフンディングとジークリンデの婚姻関係をぶち壊したジークムントを非難し、近親相姦を罵ります。
ヴォータンが神々の危機を訴え、滅亡を救うための英雄としてジークムントが必要なのだと力説しても、フリッカは聞く耳をもちません。
それどころか、自由意志によって行動する英雄が必要だというが、ジークムントはあなたの青写真に従って動いているだけの操り人形ではないか、と反論いたします。
いわれてみればそのとおりなので、さすがのヴォータンも自己の論理の正当性が崩れたのを感じ、やむをえずブリュンヒルデに先の命令を撤回し、フンディングに味方するよう改めて命じます。
ヴォータンが本心ではジークムントを愛していることを知るブリュンヒルデは、納得できないながらも父の命令に従い、その場を立ち去るのでございました。