久しぶりの再会ってことにアルコールも加わったせいもあって、俺達の会話は尽きなかった。閉店の声で、ふっと時計に目をやると、俺達二人は一瞬青ざめて顔を見合わせた。時間が経つのを忘れていた・・・。それまで散々盛り上がっていた周りの客たちは、みんなため息をつくようにして席を立ってゆく。
「明日は何曜日だっけ、・・・水曜日。・・・そっか、まだ水曜日か、ハァー。」店の出口をくぐるまでに、みんな自分をいつもの現実へ引き戻してゆく。夢の続きは、また今度と言わんばかりに・・・。 
隣の四人連れのテーブルにも伝票が届いた。すると、最初から最後まで説教じみた話を延々と続けていた職場の上司風の中年と、それをずっと神妙に聞いていた、まだ表情に学生の面影が残る三人の部下風の男たちは、一斉に財布を出して伝票をのぞき込む。そして、いそいそと割り勘を始めてゆく。大衆の居酒屋ではどこでもよく見られる光景だ。何となく気まずそうに「一人3260円ですね。」と若い部下の一人が呟くと、「じゃこれ・・・」とそのまま彼に代金が集められてゆく。まだ水割りが残るグラスを手に持ったまま、隣りのテーブルでのやり取りに見入っていた俺に、あいつは何かを感じたのか
「ま、色んなルールとか駆け引きがあるってことだよ。」
独り言のように呟いたあいつの顔を見ると、俺も直ぐさま独り言のように呟いた。
「でも、お前は今・・・、俺と同じ顔してるぜ。」
ちょうど俺達のテーブルにも伝票が届いた。隣りでは例の上司が240円の釣銭をせすように催促している。あいつはテーブルに置かれた伝票を持って立ち上がると、「いゃー、こんな遅い時間まで付き合わせちまって悪かったな。今日は俺が払うから勘弁してくれな。」そう言って俺の肩を軽くポンと叩いてニヤけた。・・・そういうことか。俺もあいつに負けじと続いた。「そんな、だって今日は僕の方から先輩に無理を言って時間を空けて頂いたのに御馳走までしてもらっては・・・。」「馬鹿だなお前、タイムカード回ってる訳じゃねぇんだから、そこまで気使うことねえんだよ。でも今日は気使いついでに俺にカッコつけさせてくれ。」「じゃ今日は御馳走になります・・・。」