◇ニーベルングの指環・第1夜◇

ワルキューレ(Die Walküre)

◇あそびのリブレット◇

(ジークムントとジークリンデが逃げてくる)

●ジークムント●
ここで休もう!

●ジークリンデ●
だめよ、追っ手が来る!
もっと遠くまで逃げなくては……!

●ジークムント●
おまえの勢いにはびっくりだよ、おれすら追いつけそうもない^^;
しかし、こう急いだのでは後が続かないよ。
ともかく、少し休まないと。

(ジークリンデ、突然怯えたようにジークムントから身を離す)

●ジークムント●
どうしたんだ?

●ジークリンデ●
だめよ、私から離れて!
あなたに愛されて、私は幸せだった!
でも、私は穢れている、気高いお兄様に愛される資格がない!

●ジークムント●
いきなり何を……?
おまえ、頭はダイジョーブか?^^;

●ジークリンデ●
拉致されたとはいえ、私は愛のない男の妻になっていたの。
穢れきったこんな私、気高いお兄様にふさわしくないわ!

●ジークムント●
そんなことは気にするな。
もう逃げることはない、ここでフンディングを迎え撃とう。
おまえの仇を、このノートゥングが討ってくれる!
やつの心臓から流れ出る血で、お前の純潔を奪った償いをさせてやるのだ!

●ジークリンデ●
あれを聞いて!
角笛の音!
フンディングがやってくる!
一族を引き連れて、たくさんの犬を先頭に立てて!
あの凶暴な犬どもには、あなたの剣もかなわないわ!
ああ、助けて!

●ジークムント●
角笛の音なんか聞こえないよ。
お前は幻に怯えているだけだ。
しっかりしろ、おれの腕を信じるんだ!
おれがお前を護り通すから!

●ジークリンデ●
ジークムント、どこにいるの?
私はあなたに愛される値打ちのない女だけど、私のキスを拒まないで!
どこにいるの、あなた?

(ジークリンデ、錯乱したようになり、疲れ果てて倒れ、意識を失う)

●ジークムント●
眠るんだ、いとしい妹よ^^
おまえは疲れすぎている。
おれがこうして、傍についててやるから^^

(ジークムント、ジークリンデの傍に腰を下ろし、寝顔を優しく見守る)

(完全武装したブリュンヒルデが荘厳に姿を現す。「死の宣告」の音楽)

●ブリュンヒルデ●
ジークムント!
私のいうことを聞きなさい!

●ジークムント●
どちら様ですか?
なんだか、この世の人とも思えませんが……(・・?

●ブリュンヒルデ●
あなたに大事なことを告げに来たのです。
私を見たあなたは、私とともに行かなければなりません。

●ジークムント●
何の話です?
いったいどこへ、おれを連れて行こうっていうんです?(?_?)

●ブリュンヒルデ●
あなたは私に選ばれたのです。
私は戦場を巡り、気高い英雄を天上に連れて行くのです。
私を見ることができるのは、選ばれた英雄だけ。
英雄であるあなたは、私とともにヴァルハラの城へ行かねばなりません。

●ジークムント●
ヴァルハラ……
そこでおれは、誰に会うのですか?

●ブリュンヒルデ●
戦いの父があなたを待っています。
ヴォータンは、あなたを快く迎えるでしょう。

●ジークムント●
そこにいるのは、戦いの父だけなのですか?

●ブリュンヒルデ●
かつて戦場で勇敢に戦い、命を失った数多くの英雄たちが、
城の広間で朗らかにあなたを迎えてくれるでしょう^^

●ジークムント●
その中には、おれの父、ヴェルゼもいますか?

●ブリュンヒルデ●
ヴェルゼも、そこであなたを待っていますよ。

●ジークムント●
そこには、女の人もいるんでしょうか?

●ブリュンヒルデ●
清らかな希望の乙女たちが、優しくあなたを迎えてくれます^^
天上の美酒を、あなたは乙女たちから受け取ることでしょう^^

●ジークムント●
もうひとつだけ聞かせてください。
ヴァルハラで、ジークムントはジークリンデに会えるのでしょうか?

●ブリュンヒルデ●
……ジークリンデは、もうしばらく地上の空気を吸わなければなりません。
ヴァルハラで、あなたはジークリンデに会うことはできません。

●ジークムント●
では、戦いの父によろしくお伝えください。
広間の英雄たちにも、希望の乙女たちにも、よろしくとお伝えください。
ジークムントは、あなたとともに行くことはありません!

●ブリュンヒルデ●
あなたは、ワルキューレである私を見てしまった。
戦場での死を運命づけられている者だけが、私を見ることができるのです!
私の視線に捉えられたあなたは、私と行かねばなりません!

●ジークムント●
あなたの視線など、恐ろしくもなんともない!
私には愛するジークリンデがいる!
妹をひとり残して、私だけ天上へなど行けるものか!

●ブリュンヒルデ●
ジークリンデのことは諦めなさい!
あなたはこの戦いで死ぬ運命なのです!
私はそれを告げに来たのです!

●ジークムント●
では聞くが、どこのどいつがおれを倒すというんですか?

●ブリュンヒルデ●
フンディングがあなたの命を絶つのです。

●ジークムント●
あいつが?はははっ(笑)
おれをビビらさせるつもりなら、もっと強い相手を持ち出してほしいもんだ!
これを見てください、おれの剣、ノートゥングを!
これは父が残してくれた剣です。
ヴェルゼはこの剣が危機を救うと約束してくれたんだ!
これがある限り、フンディングなど雑魚同然だ!

●ブリュンヒルデ●
その剣を作った者が、あなたの死を運命づけたのです!
その剣は、戦場であなたを守ることはありません!

●ジークムント●
なんてことだ!(@_@。
では、ヴェルゼの約束はでたらめだったというのか?
この剣では、ジークリンデを護ることはできないのか?

●ブリュンヒルデ●
それがあなたの運命なのです……

●ジークムント●
ジークリンデ、愛する妹よ、おれはお前を護ることもできず、
お前をひとりこの無情な世界に置き去りにしなければならないのか?(>_<)

●ブリュンヒルデ●
その人は、あなたにとって、それほど大切なのですか?
ヴァルハラに迎えられる栄光を捨て去るほどに?
ただの女に過ぎないのではないですか?

●ジークムント●
あなたは見た目は若く美しいが、心はまるで氷のような人だな!
あなたには人の愛なんてものはわかるまい!
この妹は、長い心労に耐えてきた。
戦場に立つ者よりも勇敢な心で、これまでの年月を生きてきたんだ。
このすばらしい女性を愛せないはずがあろうか?
おれはこの女性によって、本当の愛を知ったのだ。
それを「ただの女に過ぎない」だと?
ご立派な神々の目から見ればただの女でも、
おれにとっては世界でいちばん大切な宝なのだ!
笑いたければ笑うがいい!

(ブリュンヒルデ、苦悶の表情を浮かべる)

●ブリュンヒルデ●
あなたの気持ちは、私にも痛いほどわかります……(>_<)
では、私がジークリンデを保護することにしましょう。
約束します、私が確実にその人を護りましょう!

(ジークムント、頭上に剣を振りかざす)

●ジークムント●
戦いの場でおれを裏切るような剣なら、ノートゥングよ、
いっそのこと、この場でひと思いに妹を斬り、おれも後を追おう!

(ジークムント、ジークリンデに斬りつけようとする。ブリュンヒルデ、慌てて槍でそれを遮る)

●ブリュンヒルデ●
お待ちなさい、乱暴なヴェルズングよ!
なんという考えなしのことをするのです!

●ジークムント●
愛する者を護れないと決まったからには、こうするしかないじゃないか!

●ブリュンヒルデ●
……わかりました。
ジークリンデは生きるのです、そして、ジークムントも、ともに!
あなた方は、生きて、幸せをつかむのです!
あなたの運命を変えましょう、私も覚悟を決めました!
もはや剣はあなたを裏切ることはありません!
私があなたに勝利を約束します!
剣を信じなさい、勝利はあなたのものです!

(ジークムント、喜びに顔を輝かせる)

●ブリュンヒルデ●
ごきげんよう、ジークムント!^^
また戦場で会いましょう!

(ブリュンヒルデ、ジークムントに微笑みかけて立ち去る。ジークムント、再びジークリンデの傍らに寄り添う)

●ジークムント●
死んだように眠っている。
楽しい夢で、心を憩わせるがいい^^
できれば、戦いが終わるまで、このまま眠り続けていてもらいたいものだな。
目覚めた時、お前が平和を楽しめるように……^^

(遠くから角笛の音が聞こえてくる)

●ジークムント●
獲物がやってきたな。
ひと汗流してくるか。

(ジークムント、戦いの場に向かう)

●ジークリンデ●
(夢を見ながら、うわごとで)
お父様、お兄様、どこへ行ったの?
二人とも、森へ行ったっきり帰ってこない……
怖い人たちがやってくる!
お母様、助けて!
火事だわ、炎があたりを包む!
お家が、お家が焼け落ちる!(>_<)

(ジークリンデ、突然目覚める)

●ジークリンデ●
ジークムント!
ジークムント、どこにいるの?

(角笛の音が近づき、フンディングとジークムントの声が聞こえてくる)

●フンディング●
ヴェーヴァルト、ヴェーヴァルト、逃げられんぞ!
わしの犬どもが貴様を追い詰めるぞ!
この間男め、落とし前はきっちりつけてもらうからな!

●ジークムント●
フンディング、どこにいる?
さっさと出てこい、借りを返してやるからな!

●ジークリンデ●
ジークムント、フンディング、二人ともやめて!
争いはもうたくさん!

(フンディングが現れる。それを追って現れるジークムント)

●ジークムント●
おれが丸腰だと思ったら大間違いだぞ!
この剣が、お前をまっぷたつにするのだ!

●フンディング●
ヴェーヴァルト、貴様の罪はフリッカに通報済みだ!
わしの槍にかかって罪を償え!

●ジークムント●
女の名前で脅迫するのはよせ!
そんなザマでは、フリッカにも見捨てられるぞ!

(二人の間に割って入るジークリンデ)

●ジークリンデ●
二人とも、もうやめて!
どうしても戦うのなら、その前に私を殺して!

(フンディング、ジークリンデを突き飛ばす)

●ジークムント●
フンディング、覚悟しろ!
ノートゥングの切れ味をたっぷり味わうがいい!

(激しく撃ち合う二人。その時、ジークムントの背後にブリュンヒルデが現れる)

●ブリュンヒルデ●
ジークムント、あなたの剣は無敵です!
私を信じて、撃ち込みなさい!

(ジークムント、勇気百倍で撃ちかかろうとする。その瞬間、フンディングの背後にヴォータンが現れ、槍で剣を遮る)

●ヴォータン●
剣は砕けよ!

(ヴォータンの槍がノートゥングをへし折る。呆然とするジークムント。その胸をフンディングの槍が貫く。声もなく倒れるジークムント)

●ジークリンデ●
きゃあぁぁぁぁっ!!\(◎o◎)/!

(ブリュンヒルデ、すばやく折れた剣を拾い、ジークリンデに駆け寄る)

●ブリュンヒルデ●
さあ、私の馬へ!
あなたは私が絶対に護ります!

(ジークリンデを馬に乗せ、自分も乗って走り去るブリュンヒルデ。ヴォータンはジークムントの亡骸を、深い悲しみをもって見つめている)

●ヴォータン●
(フンディングに)
フリッカの奴隷よ……
行って、ヴォータンが義務を果たしたと伝えるがいい。
さあ、行け……立ち去れ!

(ヴォータンの怒りの波動に貫かれ、フンディングはその場に倒れて死ぬ)

●ヴォータン●
ブリュンヒルデめ、わしに逆らいおって!
わがままな娘には、厳罰を与えてやらねばならん!

(ヴォータン、天馬にまたがりブリュンヒルデの後を追う。幕)

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◇背景画像提供:フリー写真素材Canary様
◇テキスト:Jun-T