◇ニーベルングの指環・第1夜◇

ワルキューレ(Die Walküre)

◇あそびのリブレット◇


■登場人物■
  ジークムント(ヴェルズング族。双生児の兄。ヴォータンの息子)
  ジークリンデ(ヴェルズング族。双生児の妹。フンディングの妻)
  ヴォータン(神々の長。契約を司る神)
  フリッカ(ヴォータンの正妻。結婚を司る女神)
  ブリュンヒルデ(ワルキューレのリーダー。ヴォータンの愛娘)
  フンディング(地方の豪族。ジークリンデの夫)

■第2幕■
前奏曲。荒々しい岩山。ヴォータンとブリュンヒルデが戦いの準備をしている)

●ヴォータン●
馬に手綱をつけろ、すぐに出かけるぞ!
ジークムントに勝利をもたらすのだ!
フンディングがどうなろうと、知ったことではない^^

●ブリュンヒルデ●
ホーヨートーホー!ホーヨートーホー!\(^o^)/

(岩山の頂へ駆け上がるブリュンヒルデ)

●ブリュンヒルデ●
お父様、戦いの前に、もうひとつの戦いを覚悟した方がよさそうですよ。

●ヴォータン●
そりゃいったい何の話だ?

●ブリュンヒルデ●
あれをごらんなさい、羊に牽かせた車に乗って、フリッカがやってきます!
かなりカッカしてるように見えるけど……^^;

●ヴォータン●
う〜〜む、この大事なときに……(ーー;)

●ブリュンヒルデ●
夫婦喧嘩は苦手です、私には男たちの元気な戦いの方が性に合ってるわ。
というわけで、私はお父様を見捨てることにします^^

●ヴォータン●
おいおい、行っちまうのか?(T_T)

(ブリュンヒルデ、笑いながら岩山の向こうに姿を隠す。入れ替わりにフリッカが姿を現す)

●フリッカ●
どこに隠れようと無駄ですよ。
どうしてもあなたに聞いてもらわなければならないことがあるのです!

●ヴォータン●
なんだ?
いいたいことがあるならいうがいい。

●フリッカ●
フンディングから頼まれたのです、あの不埒な者どもに罰を与えてくれと。
私は結婚の女神、神聖な結婚を侮辱する輩を放置できませんからね。

●ヴォータン●
フンディングの頼みなど蹴ってしまえ。
愛のない結婚など、神聖でもなんでもない。

●フリッカ●
そうやって、あなたはあの二人の不倫を許すのですか?
あの恥知らずな二人の?

●ヴォータン●
まぁ、そう熱くなるな、血圧が上がるぞ^^;
あの二人が真に愛し合っていることはおまえにもわかるだろう?
好きな者同士がくっつくのは仕方のないことだ。
おまえも気持ちよく祝福してやるがいい^^

●フリッカ●
まさか、なにも知らないとはいわせませんよ!
あの二人は単なる不倫なんかじゃありません。
いいですか、近親相姦なんですよ、汚らわしいにも程があるったら!

●ヴォータン●
たしかにそのとおりだが、そういう愛があってもええんでない?^^;

●フリッカ●
冗談じゃありませんよ!
兄と妹が恋人になるなんて、聞いたこともない!<`ヘ´>

●ヴォータン●
ならば、それをおまえはいま体験したのだ。
世の中にはそういう愛の形もあるわけだ^^

●フリッカ●
もうおしまいです、神々の世界もなにもかも!
そうやって、あなたはいつも私を侮辱するんだから!
私がなにも知らないと思っているんですか?
私はね、あなたがどこで何をやったか、全部よ〜〜く知ってるんですからね!

●ヴォータン●
ストーカーか、おまえは?(-_-;)

●フリッカ●
あなたは私の目を盗み、あっちこっちで女漁りして、
そのたびにこの誠実な妻を悲しませ、
その埋め合わせのつもりか、よその女に産ませたブリュンヒルデにも
私に従順な態度をとるように命令していらっしゃる。
でもあなたは、心の中では私を馬鹿にして、そのくせ私を怖がって、
情けないったらありゃしない!
おまけに、神々の女に飽きたら、今度はあろうことか、
下界へ降りていって「ヴェルゼ」などと名乗り、
下等な人間の女と交わって子供までつくるとは!
その双子がケダモノのように愛し合うのを許そうっていうんだから、
呆れてものがいえません!
高貴な神々の一族よりも、下劣な奴隷がお気に入りなのね!
そうやって、私を馬鹿にして、侮辱するがいいわ!

●ヴォータン●
まあ待て、おまえには何もわかっていないのだ。
ひとりの英雄が必要なのだ。
われわれの世界は、その英雄によって救われる。
自由意志によって行動し、その行動が神々を救うことになる、そのような英雄だ。
その英雄を生み出すため、わしは地上に降りたのだ。

●フリッカ●
意味ありげなことをいって、また私を騙すつもりですね?
そんな出まかせで私が納得するとでも?(-。-)y-゜゜゜

●ヴォータン●
嘘ではない、わしの行為は神々の世界を永続させるのが目的なのだ!
お前は狭い了見でわしを非難するが、わしは先の先まで考えてやっているのだ。
知能の発達の止まったおまえには、わしの苦衷がわからんのだ。

●フリッカ●
専業主婦だと思って、私を馬鹿にするがいいわ!
あなたがどうおっしゃろうと、あのいやらしい双生児には罰を与えねばなりません!
あの奴隷が英雄ですって?
自由意志?はっ!(冷笑)
あなたが力を貸しているから、ジークムントは英雄ヅラできるんじゃありませんか!

●ヴォータン●
ジークムントは自分の力で苦難を克服し、独力で剣を手に入れたのだ。
わしはなんの力も貸してはおらんぞ。

●フリッカ●
笑わせちゃいけません(冷笑)
その剣を用意したのはどなた?
幼い兄妹を引き離し、苦難を与えたのはどなた?
妹の家に兄が辿り着くようにお膳立てし、準備しておいた剣をプレゼントし、
その剣で私に忠実なフンディングを殺させようとしてるのは、どこのどなた?
あの二人は、全部あなたの筋書き通りに動いてるだけじゃありませんか!
あなたは自由意志などとおっしゃるが、
ジークムントはあなたの意志に従って動く将棋の駒に過ぎない!
英雄どころか、ただの奴隷じゃありませんか!

●ヴォータン●
むむ……(-_-;

●フリッカ●
おまけに、あなたはワルキューレを助太刀に使おうとまでなさる。
あなたの保護でやっと立っていられるあの男の、どこが自由だというのです?

●ヴォータン●
……わしに、どうしろというのだ?

●フリッカ●
ヴェルズングから手を引いてください!
あなたの下卑た子供たちを、運命に任せてください!
ワルキューレがジークムントを助けるのもやめさせてください!

●ヴォータン●
ブリュンヒルデは自由に行動している!
わしはあの子の意志を尊重したい。

●フリッカ●
ふん、馬鹿なことを(冷笑)
ワルキューレだって、あなたの意志に従って動く駒じゃありませんか!
なにが自由意志なものですか!
それとも、あなたは女神である私に、妾の子供たちに従えとおっしゃるんですか?
奴隷どもに従えと?
誇り高き神々の長ヴォータンが、正妻である私をそんな目にあわせるはずはない!

●ヴォータン●
……むむむ(-_-;;

●フリッカ●
もちろん、あの剣も砕いてください。
ジークムントが自由意志の英雄とおっしゃるなら、剣も取り上げてもらいます。

●ヴォータン●
待て、あれはジークムントが自分の力で手に入れたものなのだぞ!
いくらなんでも、丸腰で戦えというのか?

●フリッカ●
あの剣に、あなたの魔力がこめられているのを、私が知らないとでも?(冷笑)
ジークムントにはあなたの保護は必要ないのでしょう?
だったら、あの剣も打ち砕いていただかないと。
ジークムントがあなたのおっしゃる英雄なら、身ひとつでフンディングと戦えばよい!

●ヴォータン●
……(ーー;)

●フリッカ●
さあ、あなた、いまいったことを実行すると誓っていただきますよ。
どうなんです?

●ヴォータン●
……誓う……(>_<)

(ブリュンヒルデが戻ってくる)

●フリッカ●
おや、あなたのお気に入りがやってきましたよ^^
親子水入らず、おしゃべりを楽しんでくださいな。
(ブリュンヒルデに)
どういう運命を選んだか、おまえの父に聞くがいい!
おっほほほほ!(^O^)

(勝ち誇って立ち去るフリッカ。心配そうにヴォータンを見るブリュンヒルデ)

●ブリュンヒルデ●
どうやら、戦いの結果は思わしくないようだわ……

(ブリュンヒルデ、ヴォータンに近づく)

●ブリュンヒルデ●
お父様、フリッカは何と?

●ヴォータン●
わしは、もはや身動きがとれん!
自分で仕掛けた罠に、自分で嵌ってしまったのだ!(>_<)

●ブリュンヒルデ●
お父様、お気をたしかに!
私がここにいます、どうか悩みを打ち明けてください!

●ヴォータン●
おまえに話したところでどうにもならんのだ!(>_<)

●ブリュンヒルデ●
お父様、私を信じてください!
私はお父様の忠実な娘、少しでもお役に立ちたいのです!

●ヴォータン●
むむ……
では、おまえに話してみよう。
話すことで、わしの頭も整理できるかもしれん。

(ヴォータン、呼吸を整える。真剣な眼差しで聞き耳を立てるブリュンヒルデ)

●ヴォータン●
青春の時が過ぎ、愛欲にも飽きた頃、わしの心は権力に向かった。
権力をより確固たるものにすべく、わしは世界を巡り歩いた。
ローゲが道案内を務めてな。
あやつも今はわしの前から姿を消しているが……

ある時、ラインの黄金が奪われた。
闇の種族、ニーベルング族のアルベリヒがそれを奪い、
愛を断念する代償として、黄金から指環を作ったのだ。
その指環は世界を支配する力をもち、アルベリヒはその力で闇の世界に君臨した。
わしは策略で指環を手に入れたのだが、それはわしのものにはならなかった。
エルダが不吉な予言をし、指環を捨てるようわしに忠告したのだ。
わしはその忠告に従った……
だが、指環をラインの乙女どもに返しはしなかった。
わが城、ヴァルハラをわしは巨人どもに造らせたのだが、
指環はその代償として、巨人どもに支払ったのだ。
巨人の弟ファフナーは兄のファゾルトを打ち倒し、指環と財宝をわがものとした。
いまやファフナーは大蛇に姿を変え、「欲望の洞窟」の奥で指環を守っている。

わしはエルダの予言が気になってならなかった。
エルダは神々の滅亡を予言したのだ。
詳しいことが知りたくて、わしは地下に眠るエルダの許を訪れ、
すべてを聞き出すためにエルダを愛撫した。
その時に生まれたのが、おまえたちワルキューレの姉妹なのだ。
わしはお前たちを慈しみ、育てたのだ……^^
立派に成長したおまえたちは、天馬を駆って戦場を駆け巡り、
死せる勇者をいざない、わがヴァルハラの城の護りを日ごとに堅くしてくれる^^

●ブリュンヒルデ●
はい、私たちはお父様の御心に叶うよう、あらゆる戦場で勇者をスカウトしています^^

●ヴォータン●
それもみな、ヴァルハラの力を世界に見せつけ、
神々の世界に土足で踏み込もうとする輩を脅しつけるためなのだ。
だが、わしは不安でならぬ。
エルダは、アルベリヒがわしに復讐を誓っていること、
策を弄して呪われた指環を取り戻そうとしていることを語った。
アルベリヒは人間の女と愛のない交わりを結び、ひとりの息子を産んだという。
あの邪悪な男は、自分の息子を闇の英雄に育て上げ、
指環の奪取を画策するに違いないのだ。
もしアルベリヒが指環を手に入れたら、その時こそ神々の終わりだ!
指環の力で強大化された闇の軍勢の前には、ヴァルハラの城壁も役には立つまい。
それがわかっていながら、わしには指環を手に入れる術がない。
わしは正当な契約のもとに、指環を巨人どもに与えた。
契約を司る神であるわし自身が、自ら契約を破ることはできないのだ!

わしは人間に身をやつし、下界に降りた。
人間の女と交わり、ひとりの英雄を得ようとしたのだ。
わし自身は契約を破ることはできぬ。
だが、古い契約に縛られず、自らの自由意志で行動し、
しかもその行為がわれら神々の利益につながる、
そのような英雄ならば話は別だ。
彼はわしの代わりに行動し、自らの意志で指環をわがものとするはずだ。
そして、ジークムントが生まれた。
彼こそは、待望の英雄のはずだった……
だが、すべては徒労だった。

●ブリュンヒルデ●
なぜです?
ジークムントは、自由意志で行動しているのではないのですか?

●ヴォータン●
フリッカは了見の狭い女だが、今度ばかりは間違っておらぬ。
たしかにわしはジークムントをわしの思い通りに動かした。
ジークムントは自由意志で行動しているとはいえぬ……

●ブリュンヒルデ●
お父様……
私はどうすればよいのでしょう?

●ヴォータン●
戦場へ行け。
そして、フリッカの望みを叶えてやるがいい。
フンディングに勝利をくれてやるのだ!

●ブリュンヒルデ●
そんな……
ジークムントを見捨てろと?

●ヴォータン●
ジークムントの剣を打ち砕くのだ。
油断してはならぬ、あの剣を装備したジークムントは強靭な戦士だぞ。
手加減しようなどと考えると、おまえとて返り討ちに遭うかも知れぬ。

●ブリュンヒルデ●
それがお父様の本心とは思えません!
お父様はジークムントを、ヴェルズングを愛していらっしゃいます!
どうか、ご自分のお気持ちに忠実になってください!
私はジークムントに助太刀します!

(ヴォータンの全身から憤怒が燃え上がる)

●ヴォータン●
思い上がりもほどほどにしておけ!
わしの命令に背く気か?
悩みを打ち明けたからといって、わしを甘く見るとただではおかんぞ!
おまえの命の炎など、わしはひと吹きで消してしまうぞ!
これ以上わしを怒らせるな!
わしが本気で怒ったら、世界は粉々になるかもしれんぞ!

(ブリュンヒルデ、ヴォータンの剣幕に怯えて武具を取り落とし、頭を抱えてその場に蹲る)

●ヴォータン●
行け、わしの命令を忠実に遂行するのだ!

(ヴォータン、立ち去る。呆然と見送るブリュンヒルデ。やがて立ち上がり、のろのろと武具を拾う)

●ブリュンヒルデ●
槍と盾を、こんなに重く感じたのは生まれて初めて……
戦場では、あんなにも軽く思えるのに……

(ブリュンヒルデ、力なくその場を立ち去る)

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◇背景画像提供:フリー写真素材Canary様
◇テキスト:Jun-T