◇ニーベルングの指環・第1夜◇

ワルキューレ(Die Walküre)

◇あそびのリブレット◇


■登場人物■
  ジークムント(ヴェルズング族。双生児の兄。ヴォータンの息子)
  ジークリンデ(ヴェルズング族。双生児の妹。フンディングの妻)
  フンディング(地方の豪族。ジークリンデの夫)

■第1幕■
(フンディングの館の広間。広間の一隅に巨大なトネリコの幹が見える。なぜ家の中にこんなでかいトネリコの幹があるのかよくわからない ^^;)
前奏曲。激しい嵐の夜。扉が開き、ジークムントがよろめきながら入ってくる)

●ジークムント●
もう限界だ!ここで休まなければ…

(ジークムント、広間の隅に倒れ伏す。気配に気づいてジークリンデがやってくる)

●ジークリンデ●
こんな嵐の夜に、誰が入ってきたのかしら?

●ジークムント●
水、水を!

●ジークリンデ●
たいへんだわ!

(ジークリンデ、急いで奥に入り、水を持ってくる)

●ジークリンデ●
さあ、これを…

(ジークムント、水の入った器を受け取り、むさぼるように飲み干す)

●ジークムント●
ありがとう!
おかげで生き返ったような気分ですm(__)m

(二人、じっと見つめ合う。いい雰囲気になってくる^^)

●ジークムント●
ここは?あなたは?

●ジークリンデ●
この住まいも、私も、フンディングの持ち物です。

●ジークムント●
突然入り込んで失礼しました。
傷つき、やっとの思いでここまで辿り着いたのですm(__)m

●ジークリンデ●
傷ついてるですって?
それはたいへん、早く手当てしないと…

●ジークムント●
いや、傷はたいしたことはない。
このとおり、両手も両足もちゃんと動く。三角巾は必要ありません^^
しかし、激しい戦いの中で、槍も盾も砕けてしまった。
武器があれば、こんな惨めなざまになることもなかったのだが…

(二人、じっと見つめ合う。ますますいい雰囲気になってくる^^)

●ジークムント●
おかげで元気を取り戻すことができました。ありがとう^^
おれはもう行かないと。

●ジークリンデ●
出て行くですって?この嵐の中を?
いけません、今夜はここにお泊りください!

●ジークムント●
あなたはおれに親切にしてくれた。
だからおれは出て行くのです。
おれがここにいると、あなたは不幸になる。
おれは不幸をばらまく男なんでね。

●ジークリンデ●
それならば、心配することないわ!
だって、私はもうここで充分に不幸なんですもの。
だから、気にせずにお泊まりなさい!

●ジークムント●
しかし、あなたのご主人が、私を歓迎してくれるかどうか…

(ジークリンデ、戸棚から酒を出し、杯に注ぐ)

●ジークリンデ●
いかが?おいしい蜜のお酒よ、元気が出るわ^^

●ジークムント●
ありがとう^^
まず、あなたが味見してくれますか?

●ジークリンデ●
いいわ^^
間接キスね、ふふ(*^_^*)

●ジークムント●
え?いやその(^^ゞ

(ジークリンデ、酒を一口飲み、杯を差し出す。ジークムント、杯を受け取り、飲む。二人、見つめ合う。ますますもっていい雰囲気に^^)
(突然、無粋な角笛の音。二人、はっとして離れる。扉が開き、フンディングが帰ってくる)

●フンディング●
……………………

●ジークリンデ●
あの、この人は、疲れきってここに辿り着いたんです。
それで、水をあげて介抱していたんです。

●ジークムント●
旅の者に親切にしたからといって、奥さんを責めないでいただきたい!

●ジークリンデ●
こんな嵐の夜ですもの、一晩泊めてあげませんか?…お願いm(__)m

●フンディング●
わしの暖炉も、わしの広間も神聖だ。
フンディングの屋敷に泊まる以上は、そのことを肝に銘じてもらいたいものだな、旅の人よ。

(フンディング、食卓に着く)

●フンディング●
わしら二人に食事の支度だ!

●ジークリンデ●
はい、すぐにm(__)m

(ジークリンデ、奥に下がる)

●フンディング●
ここから西の方に、強力な一族が館を連ねている。
彼らはこのフンディングの盾となっているのだ!
…さて、旅の人よ。
ここに泊まるからには、この家の主人たるわしにそれ相応の敬意を示してくれないか?
君の素性を明かす、という形でな。

●ジークムント●
……………………

(ジークリンデが料理を運んでくる)

●フンディング●
わしに話したくないなら、妻に話してくれてもいい。
見たまえ、妻は君の話を聞きたがってそわそわしているぞ。

●ジークリンデ●
もしよければ、ぜひ聞きたいわ、あなたのこと^^

●ジークムント●
…おれは、はるか遠い土地で生まれました。
周りの者はおれたちの一族をヴェルフェ(狼)と呼んで怖れていました。
おれには双子の妹がいました。
だが、その妹とは幼い頃に生き別れになってしまった…

(フンディング、食事を始める。ジークリンデ、かいがいしく給仕する)

●ジークムント●
父は好戦的で、たくさんの敵を作りました。
ある日、父と狩に出て、帰ってみると、屋敷は焼かれ、母は殺されていた。
幼い妹の姿はなかった…
父とおれは森に潜んだが、敵が押し寄せてきた。
戦いの中で、おれは父を見失った。
残っていたのは、この狼の毛皮だけでした…

●フンディング●
なんとも荒々しい話だな。
ヴェルフェの一族という名は、わしは聞いたことがない。
しかし君はずいぶんと苦労して育ったらしいな。

●ジークムント●
おれは敵から逃れ、森の中をさすらった。
やがて、おれは「世間」に出たくなり、森を去った。
おれは淋しかった。
友達や家族、要するに、おれを愛してくれる人が欲しかったんです。
「世間」に出ると、おれは人と交わろうとしました。
だが、人間関係がうまくいかないんです。
他人がいいと思うことはおれには我慢ならないことばかりで、
おれが正しいと思うことは他人には罪悪なのです!
おれはどこでもはぐれ者だった。
おれが関わる人は、誰もが不幸になる。
だからおれは自分のことを、ヴェーヴァルト、「不幸をもたらす者」と呼んでいるんです。

●フンディング●
不幸がついてまわるのは、君が運命の女神ノルンに愛されていない証拠だ。
この屋敷に転がり込んできた君を、わしも歓迎しているわけではないぞ。

●ジークリンデ●
あなたのような勇者が、なぜ武器も失ってここへ?

●ジークムント●
旅の途中に、ひとりの娘と知り合いました。
その娘は、不本意な結婚を強いられているのを嘆いていました。
おれはその娘を助けることにして、娘の親族と戦った。
敵は大勢、それを相手に槍を揮い、多くの敵を血祭りにあげた。
その敵の中には娘の兄弟もいた。
娘は自分の兄弟がおれの手にかかるのを見ると、半狂乱になっておれを罵り始めた!
おれは頭が混乱したが、娘を守って戦い続けた。
敵は援軍を繰り出し、ついに槍も盾も砕け、娘はおれの前で死んだ。
おれはその場を逃れ、どこをどう走ったのかわからない。
気がついたらこの屋敷の窓の灯りが見えた…
そういうことです。

●フンディング●
わしは今日、一族の者に呼ばれて出かけた。
ひとりの無法者がわが一族に敵対して荒れ狂っているので、助けを求められたのだ。
わしが着いた時、無法者は逃げ出した後だった。
しかし、まさかその無法者にわが家で出くわすことになろうとは!

●ジークリンデ●
ああ、なんてことに!(>_<)

●フンディング●
旅の者よ、おまえはわれらの仇だ!
わしは結婚の女神フリッカの名にかけて、おまえを倒す!
とはいえ、おまえには一夜の宿を約束した。
だからその約束を守って、今夜だけはおまえをこの広間に泊めることにしよう。
だが、夜が明けたら決闘だ!

(フンディング、扉の前に立ち、ジークムントとジークリンデをしげしげと見つめる)

●フンディング●
あの二人は、こうして見てみるとなんとよく似ていることか!
顔立ちなど、まるで瓜二つではないか!

●ジークムント●
なんてことだ、逃げ込んだ先が当の敵の家だったとは!(>_<)
しかも、おれは丸腰ときている!(T_T)

(フンディング、扉に鍵をかける)

●フンディング●
おまえは武器をなくしたそうだが、戦いに武器はなくてはならんものだ。
しかし、わしはおまえが丸腰だからといって手加減するつもりはないぞ。
明日の戦いに備えて、充分心の準備をしておくことだな(冷笑)

●ジークムント●
……………………

●フンディング●
おい、寝室に寝酒をもってこい!

●ジークリンデ●
はい…

(フンディング、寝室に下がる。ジークリンデ、ジークムントを悲しげに見つめてから、フンディングのあとに続く。ひとり取り残されるジークムント)

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◇背景画像提供:フリー写真素材Canary様
◇テキスト:Jun-T