チャイコフスキー/交響曲第6番 ロ短調 作品74「悲愴」
(Tchaikovsky : Symphony No.4 in B minor, Op.74 "Pathètique")

Tchaikovsky この曲は、チャイコフスキー最後の傑作というばかりでなく、古今のあらゆる交響曲中、もっとも有名な作品のひとつでございます。
1993年の2月から8月にかけて、およそ半年で書き上げられたこの交響曲は、「悲愴交響曲」と名付けられました。かつては、弟モデストの提案でこのタイトルに決まったという話が流布しておりましたが、実際には弟とは関係なく、チャイコフスキー自身が「悲愴」と名付けたというのが真相のようでございます。

1888年の第5交響曲の後、「人生」をテーマにした壮大な交響曲を模索していたチャイコフスキーは、1891年から92年にかけて変ホ長調の交響曲に取り組みましたが、これを意に満たない失敗作として放棄し、新たな構想でロ短調の交響曲に着手しました。この曲の出来栄えはチャイコフスキーを満足させ、「自分の全作品中、最良のもの」と公言するほどの自信作となりました。

初演は1893年10月28日にチャイコフスキー自身の指揮で行われましたが、成功とはいえない結果に終わりました。従来の「交響曲」というイメージから予想されるものとあまりにかけ離れた音楽に、多くの聴衆が戸惑ったためと思われますが、いつもなら演奏会の結果に一喜一憂しがちなチャイコフスキーが、この曲に関しては少しも自信を揺るがすことなく、「最高傑作」という自己評価を変えることのなかったのは異例でございます。
よく知られているように、チャイコフスキーはこの初演からわずか9日後の11月6日、コレラとそれに伴う肺水腫のために急逝し、追悼演奏会で演奏された第6交響曲は、多くの聴衆の涙を誘って大成功を収めました。
このドラマティックな事実から、「悲愴交響曲」とチャイコフスキーの死にまつわる様々な説が飛び交い、いやが上にもこの交響曲を有名にしたということはあったでしょう。実際、チャイコフスキーはこの交響曲を「レクィエム」と表現したこともあり、とりわけ終楽章の末尾の次第に途絶えてゆく脈拍のような響きを聴いて、避けられない死を連想することは不思議ではないと思われます。
死因についても定説となっているコレラの他に、ヒ素などの服用による自殺説もあり、秘密裁判による強制的な自殺(実質的には他殺)説まで流布されております。 しかしながらチャイコフスキー自身は、指揮の依頼など次の仕事も引き受けておりますし、この作品で自らの生涯を終えようとするつもりはなかったようで、今日ではやはりコレラによる肺水腫が直接の死因として妥当とされているようでございますが、真相は闇の中と申すほかありません。

作品自体については、超有名曲であるだけに、いまさらここで多言を要することもないと存じます。
形態的には巨大な第1楽章に対して相対的に短い第2〜4楽章という点で、第4交響曲に近いものがございます。ただし、決定的に異なるのは、いうまでもなく終楽章が緩徐楽章になっておりますことで、19世紀末という時代感覚からいえば、これは大胆極まる楽章配置でございます。
また、第4と第5の2つの交響曲で採用された循環主題的な手法はこの曲には使われず、全曲を支配する構成要素として、より根源的な下行する音階が用いられております。同時に、そのアンチテーゼのように、上行する音階も使用され、第1楽章の第1主題は上行音階・下行音階の組み合わせで構成されております。
第2楽章ではワルツ主部は上行音階、中間部は下行音階が中心となり、第3楽章ではコーダで下行音階が強調され、終楽章においては全面的に下行音階が主要素となっております。

ここで取り上げておりますピアノ連弾版は、チャイコフスキー自身による編曲でございます。
チャイコフスキーはオーケストラの色彩感よりこの曲の骨組みを示すことを重視したようで、場合によっては声部の一部をバッサリと削除している箇所もございます。もちろんこれには、1台のピアノで演奏するという技術的な制限もあったことでしょう。
とはいえ、ピアノで演奏された悲愴交響曲、お楽しみいただければ幸甚でございます。

(2014.8.17〜8.28)

交響曲第6番ロ短調作品74「悲愴」・全曲連続再生 

第1楽章/アダージョ−アレグロ・ノン・トロッポ(I. Adagio - Allegro non troppo) 
第2楽章/アレグロ・コン・グラツィア(II. Allegro con grazia) 
第3楽章/アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ(III. Allegro molto vivace) 
第4楽章/フィナーレ:アダージョ・ラメントーソ(IV. Finale : Adagio lamentoso) 

【2台ピアノ版について】
既にチャイコフスキー自身の手に成る優れた連弾版があるというのに、蛇足のようなアレンジをアップいたしましたのは、まったくのところJun-Tの個人的な興味で、第4楽章を2台ピアノでやってみたいという、ただそれだけの理由でございます。それなら終楽章だけアップすればよさそうなものですが、せっかくですから、全曲2台ピアノ用に編曲することにいたしました。
上に述べましたように、これは正真正銘の蛇足でございます。暇を持て余されているときにでも、時間つぶしにお聴きいただければ幸甚でございます。
(2016.4.21〜5.3)

交響曲第6番ロ短調作品74「悲愴」(2台ピアノ版)・全曲連続再生

第1楽章/アダージョ−アレグロ・ノン・トロッポ(I. Adagio - Allegro non troppo) 
第2楽章/アレグロ・コン・グラツィア(II. Allegro con grazia) 
第3楽章/アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ(III. Allegro molto vivace) 
第4楽章/フィナーレ:アダージョ・ラメントーソ(IV. Finale : Adagio lamentoso) 

◇「チャイコフスキー/交響曲全集」に戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:P. I. チャイコフスキー/Jun-T ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma