ブルックナー/交響曲第9番 ニ短調
(Anton Bruckner : Symphony No.9 in D minor)

1887年、第8交響曲の完成後、ブルックナーは次の作品、この作曲家の最後の大作となる第9交響曲に着手しました。第8交響曲という超大作のあと、さらに次のアイディアが直ちに浮かんでくるというのは、まったく驚異的なことでございます。
しかしながら、自信作であった第8交響曲に「演奏不可能」の烙印を押され、ブルックナーは第9交響曲の作曲をひとまず棚上げとし、第8の大改訂に取りかかります。この件がきっかけとなって、ブルックナーは第1から第4までの4つの交響曲の改作にも手を着け、その改訂作業が第9の進行を著しく阻害いたします。識者の中には、第9交響曲の作曲の負担に耐えかねたブルックナーが、旧作の改訂に一時的に逃避したのではないか、という人もございます。

1892年、第8交響曲が初演され、成功を収めると、ブルックナーは本格的に第9交響曲の作曲を進め、1894年には第3楽章まで書き上げました。しかしながら、この頃からブルックナーの健康は衰え、1896年10月11日、72歳の生涯を終えました。
死去した日の午前中までブルックナーは第4楽章の作曲を続けておりましたが、ついに完成には至らず、この大作は未完のまま残されることとなりました。

第8交響曲が、いわばブルックナー交響曲の集大成といった趣をもつのに対し、第9交響曲は明らかにその先、新たな地平を開く作品のように思えます。旋律的にも和声的にも、これまでの作品より柔軟かつ大胆で、一種宇宙的な響きを聴かせる実にユニークで壮大な音楽でございます。
第1楽章はおそらくブルックナーの全交響曲の冒頭楽章としては最大の規模をもっております。3つの主題によるソナタ形式で書かれており、その豊かな楽想と荘厳さによって、ブルックナーの残した最良の楽章と申せましょう。第2楽章はスケルツォで、その地獄の舞踏のような音楽はブルックナーのスケルツォとしてはまったく異例のものでございます。そして第3楽章は、第8交響曲のアダージョと並ぶ長大な緩徐楽章で、この種の音楽のブルックナーの到達点を示しております。もし第4楽章が完成していれば、この曲は間違いなくブルックナー最大最長の交響曲になったことでしょう。
ブルックナーは、この作品を正規の4楽章構成にするつもりで努力を重ねたわけですが、未完成とはいえ、第3楽章で終わっても違和感がないどころか、充分に完成した交響曲として聴くことができます。実のところ、第4楽章は再現部の第3主題部まで書き残されており、現在では、その草稿をもとにした何種類かの完成版を聴くこともできるのですが、個人的な愚見を申すなら、どうもこの第4楽章は第3楽章までのレヴェルに達していないような気がしてなりません。ブルックナー自身があと数年生きて完成させたら、第4楽章も全曲を締めくくるにふさわしい音楽に磨き上げられたのかもしれませんが、現段階では、第3楽章で締めくくる方が深い印象を残すような気がいたします。

「あそびの音楽館」では、このブルックナー最後の傑作を、2台ピアノ版で公開することにいたしました。編曲者はグルンスキー(Karl Grunsky,1871〜1943)という人で、ワーグナーやブルックナーを研究した音楽学者、批評家のようでございます。
ブルックナーの交響曲をピアノで演奏することで原曲の面白味が著しく損なわれるのはもとより承知しておりますが、万が一お楽しみいただければ幸甚でございますm(__)m

(2019.8.28〜9.10)

交響曲第9番ニ短調・全曲連続再生 

第1楽章/荘厳に:ミステリオーソ(I. Feierlich ; misterioso) 
第2楽章/スケルツォ:活動的に、生き生きと(II. Scherzo ; Bewegt, lebhaft) 
第3楽章/アダージョ:非常に遅く、荘厳に(III. Adagio ; Sehr langsam, feierlich) 

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◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:K. グルンスキー ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma