ブルックナー/交響曲第6番 イ長調
(Anton Bruckner : Symphony No.6 in A major)

巨大な第5交響曲を書き上げた翌年の1879年の夏から秋にかけて、ブルックナーは新しい交響曲に着手いたします。
この年ブルックナーはすでに55歳、オルガニストとしての名声は高いものの、いまだ交響曲作家としては評価されず、全力を傾注した第5交響曲も初演の目途さえ立たない状況でございます。当時としては老境に入ったと申してよい年齢ながら、次々に新しい交響曲の構想を繰り出すブルックナーの創作力は尋常ではございません。
作曲を始めてから1年後の1880年の夏休み、ブルックナーはスイスに旅行し、モンブラン山脈の景観に大きな感銘を受けます。この経験は、作曲中の第6交響曲にも影響したと考えられております。

曲の完成は1881年の9月。初演は1883年2月に、ウィーン・フィルの演奏会で行われました。ただし、このときの初演は第2・第3楽章のみの部分初演で、比較的好評ではありましたが、その後再演されることもなく、作曲者の生前にはついに演奏されることはありませんでした。
全曲の初演は1899年、マーラー指揮のウィーン・フィルによるものでしたが、このときマーラーは「あまりに長すぎる」という理由で大幅なカットを施しております。長大な交響曲で知られるマーラーの言葉とも思えませんが、マーラーとしては尊敬するブルックナーの作品を少しでも広めたいという善意からだったのでございましょう。
完全な形でこの作品が初演されたのはさらに2年後の1901年、シュトゥットガルトにおいてのことでした。
結局のところ、第0を除く第1から第8までの完成された8つの交響曲のうち、第6は作曲者の生前に全曲演奏されなかった唯一の例となりました。

第6交響曲は長大な作品が肩を並べるブルックナーの交響曲の中にあって、珍しく短い曲でございます。短いと申しましても、50分に達する演奏時間は19世紀交響曲としては大型の部類に入りますが、荘厳な第5と流麗な第7という2つの大交響曲に挟まれて、相対的にその存在は目立たないものとなっております。
演奏頻度も低く、傑作ぞろいの第4以降の交響曲では残念な扱いを受け続けた作品と申せましょう。
しかしながら、第6交響曲はそれまでのブルックナーの行き方、とりわけ第5で頂点に達した巨大化と複雑化の方向性に区切りをつけ、よりシンプルで見通しのよい構成を実現することに成功した作品でした。
この曲で達成された「簡潔に要点を述べる」方向性を維持したまま、作品に長大なスケールを与えることで、ブルックナーは第7以降の交響曲で強い説得力をもつ大作を成就しえたとも考えられます。

ここで取り上げております2台ピアノ用の編曲はグルンスキー(Karl Grunsky,1871〜1943)の手に成るものでございます。
ピアノで聴く第6交響曲、お楽しみいただければ幸甚でございます。

(2021.10.24〜11.6)

交響曲第6番 イ長調・全曲連続再生 

第1楽章/マエストーソ(I. Maestoso) 
第2楽章/アダージョ:きわめて荘厳に(II. Adagio : Sehr feierlich) 
第3楽章/スケルツォ:落ち着いた動きで(III. Scherzo : Ruhig bewegt) 
第4楽章/フィナーレ:活動的に、ただし、あまり速すぎないように 
    (IV. Finale : Bewegt, doch zu schnell) 

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◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:K. グルンスキー ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma