ブルックナー/交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」
(Bruckner : Symphony No.4 in E flat major, Die Romantisch)

ブルックナーは1874年の1月から11月にかけて、習作と第0番を含めると通算6曲目の交響曲を作曲しました。これが第4交響曲で、ブルックナーとしては初めての長調交響曲となります。ブルックナー50歳の年でございます。この最初の稿を今日では「第1稿」と称しております。
この時期までに、ブルックナーの交響曲では第1と第2の2曲が初演されておりましたが、第1はリンツではそこそこ好評だったとはいえウィーンでは話題にもならず、第2はウィーン・フィルによって演奏されたものの、評論家からは「休止交響曲」と揶揄されて終わりました。また、ワーグナーに献呈した第3交響曲は1875年に初演される予定でしたが、リハーサルでウィーン・フィルが演奏を拒否。初演は見送られることになりました。
このような状況の中、ブルックナーは新作の第5交響曲の作曲と並行して第3交響曲の改訂を進め、1876年に第5を完成、その翌年には第3交響曲の改訂も終了。この年の12月、ようやく第3交響曲が初演されることになりました。
ところが、待ち望んでいた第3交響曲の初演は記録的な大失敗に終わり、ブルックナーは精神的に大きなダメージを被ってしまいます。

翌1878年の1月、ブルックナーは第3交響曲の失敗に鑑み、未発表の第4交響曲の改訂に着手。年内に第3楽章までの改訂を終わり、1880年には第4楽章の改訂作業も終了します。このときの改訂は非常に大きなもので、第3楽章などは全曲まるごと別の曲に差し替えられました。この稿は今日「第2稿」と称されております。
1881年の2月、ハンス・リヒター指揮のウィーン・フィルによって、第4交響曲は初演されました。「第1稿」の完成から6年以上、苦心惨憺の甲斐あって、ブルックナーの交響曲としては初めての成功を収めました。
ブルックナーの運が上向いてきたのはこの時期からで、その後1884年の第7交響曲の大成功で、交響曲作家としてのブルックナーの地位は決定的となるのでございます。

1887年から翌年にかけて、スコアの出版に際し、ブルックナー監修のもとに第4交響曲の再改訂が弟子たちの手によって行われます。これは今日「第3稿」とされておりますが、最初に出版されたために「初稿」といわれることもございます。
当初はこの「第3稿」が一般にスタンダードな稿と見なされておりましたが、研究が進んだ20世紀においては「第2稿」がもっとも適切なものと考えられ、演奏される場合にもこの稿に拠ったスコアが使用されるのが一般的なようでございます。

ブルックナーは19世紀ロマン派の作曲家としては稀に見るほど文学に縁のない人でしたが、第4交響曲だけには珍しく「ロマンティック」という副題を付け、しかも各楽章に標題音楽的なコメントを残しております。ただし、この場合の「ロマンティック」はラテン文学に対する中世ロマンス語の文学という意味で、以下のように中世騎士物語的な内容になっております。

第1楽章 夜明け。城門から騎士たちが現れ、森に分け入って木々のざわめきや鳥の声を聞く。
第2楽章 祈りと夜の情景。
第3楽章 狩りの場面。
第4楽章 中世の村の祭り。

「ロマンティック」という副題がこの交響曲の知名度を上げる一因になっていることは事実ですが、同時にこの曲は、それまでのブルックナーの交響曲に比べて聴きやすさ、旋律の豊かさが大きいことも確かです。第3交響曲までの4曲(最初期の習作も含めれば5曲)を初期交響曲とするなら、第4は第7に至る中期交響曲の皮切りと申してよろしいでしょう。

ところで、上記のように、この作品は大別して3つの稿が存在しておりますが、各楽章の速度表記も稿によってかなり異なっております。

第1稿(1874年稿)
I.アレグロ
II.アンダンテ・クァジ・アレグレット
III.スケルツォ:きわめて速く
IV.フィナーレ:アレグロ・モデラート

第2稿(1878/80年稿)
I.活発に
II.アンダンテ・クァジ・アレグレット
III.スケルツォ:活発に
IV.フィナーレ:活発に、しかし速すぎずに

第3稿(1887/88年稿)
I.落ち着いた速さで(アレグロ・モデラート)
II.アンダンテ
III.スケルツォ:活発に
IV.フィナーレ:感動をもって

全曲は通例に従って4つの楽章から成っておりますが、この曲に至って初めて第4楽章が第1楽章に拮抗する大きさを獲得しております。
それまでのブルックナーの交響曲では、前半2つの楽章に対して終楽章が相対的に比重が小さく、どうも竜頭蛇尾気味のところがございましたが、第4ではそのような傾向は払拭されました。終楽章がそれまでの大きさをしっかり受け止めるという方向性は次の第5にも受け継がれ、最終的には第8交響曲の壮麗な終曲に至ります。
また、第4で始められた長調交響曲の歩みは中期全体を通じて続けられ、第7交響曲の流麗さに結実いたします。
このように、第4交響曲はその後のブルックナーの円熟と発展の第一歩を示す、画期的な作品なのでございます。

ここで取り上げております2台ピアノ用の編曲は、グルンスキー(Karl Grunsky,1871〜1943)の手に成るものでございます。グルンスキーが編曲を手がけた時期は20世紀の初めということもあり、当時スタンダードであった「第3稿」に基づいております。
ピアノで聴く第4交響曲「ロマンティック」、お楽しみいただければ幸甚でございます。

(2020.8.30〜9.16)

交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」・全曲連続再生 

第1楽章/落ち着いた速さで(I. Ruhig bewegt, Allegro molto moderato) 
第2楽章/アンダンテ(II. Andante) 
第3楽章/スケルツォ:活発に(III. Scherzo : Bewegt) 
第4楽章/フィナーレ:感動をもって(IV. Finale : Mäßig bewegt) 

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◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:K. グルンスキー ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma