ブラームス/交響曲第2番 ニ長調 作品73
(Johannes Brahms : Symphony No.2 in D major, Op.73)

1877年の6月から9月にかけて、ブラームスは夏の休暇をオーストリア南部にある避暑地のペルチャッハで過ごしましたが、そのおよそ4ヶ月間に2番目の交響曲をほとんど書き上げてしまいました。前年に発表した第1交響曲には着想から完成まで、単純に計算すれば21年ほどもかけている(実際に現在の第1交響曲の作曲に費やした時間はその期間の一部ですが)のとは大違いでございます。
Johannes Brahms 風光明媚なペルチャッハの環境がブラームスの歌心を刺激したことは間違いございませんが(「ここではいたるところに旋律が飛び交っているので、それを踏み潰さないようにしなければ」というようなことを、ブラームスは友人で音楽評論家のハンスリックに宛てた手紙に書いております)、それに加えて、やはり懸案の第1交響曲の完成とその成功で、「ひとまず肩の荷を下ろした」という開放感が、創作の筆を伸びやかに進める一因にもなったのではないでしょうか。
さらに、ブラームスは同一ジャンルで性格の異なる作品を並行して書くことがあり、この場合にも第1交響曲の仕上げに取り組みながら、第2交響曲の着想も得ていた可能性がございます。
それはともかく、秋になってペルチャッハからリヒテンタールに移ったブラームスは、交響曲を10月に書き上げ、この新作はその年の12月30日にウィーンで初演されました。初演は大成功で、前年の第1交響曲に続いての成功によって、ブラームスは当代随一の交響曲作家としての名声を確固たるものにいたしました。

鎧兜に身を固めたような第1交響曲に比べて、第2交響曲は肩の力を抜いた親密さと流麗さに満ちており、ブラームスのもっとも魅力的な交響曲のひとつとして、現在でも多くの愛好者をもっております。初演前にスコアを見たクララ・シューマンは「この曲は第1よりずっと聴衆受けがいいでしょう」と語ったそうですし、指揮者のワインガルトナーも、ブラームスの音楽全般に対して否定的な著書(「ベートーヴェン以後の交響曲」)の中で「彼の第2交響曲は第1交響曲よりも遙かに秀れている。創案力がかくも新鮮で独創的なものは、ブラームスの他の作品では殆ど見出し難い」(森本覺丹・訳)と評価しております。
ブラームスの交響曲のうち、「好きな交響曲」という一般投票をすれば、この曲はもしかするとトップの座を射止めるかもしれません。

さて、ブラームスはこの交響曲を1台ピアノ四手連弾とピアノ二重奏の2つの形態に編曲しております。
ピアノ二重奏への編曲は初演に先立って書き上げられ、作曲家でピアニストのイグナーツ・ブリュル(Ignaz Brüll : 1846〜1907)との二重奏で私的に初演されました。友人を集めて新作交響曲をピアノ二重奏で試演することは一種の慣習のようになり、その後の第3、第4交響曲の場合にも、ブラームスはブリュルとの二重奏で試演会を行っております。

「あそびの音楽館」では、この2台ピアノによる第2交響曲を公開することにいたしました。
ブラームスの編曲は、この作曲家らしく虚飾を排した手堅いものですが、1台ピアノ連弾版と異なり、オーケストラのイメージを2人の奏者の掛け合いで表現している点、交響曲の編曲としてはより興味深いものになっているかと存じます。

(2013.2.5〜2.20)

交響曲第2番ニ長調作品73・全曲連続再生 

第1楽章/アレグロ・ノン・トロッポ(I. Allegro non troppo) 
第2楽章/アダージョ・ノン・トロッポ(II. Adagio non troppo) 
第3楽章/アレグレット・グラツィオーソ、クアジ・アンダンティーノ 
       (III. Allegretto graziso, quasi andantino)
第4楽章/アレグロ・コン・スピリート(IV. Allegro con spirito) 

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◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:J.ブラームス ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma