■ 沈黙の瞳 ■

彼の心の奥底に、「彼の全て」を静かに見つめ続ける【もうひとつの瞳】が

あったんだ。・・・日常の中で遭遇する様々な困難やトラブルを避けるた

めに、自分自身を心ない微笑みや慰めの言葉で取り繕いながら生きて

行く暮らし・・・。

【瞳】は何時も静かに沈黙したまま、そんな彼の姿をただじっと見つめて

いるだけだったんだ。

彼はもう随分昔から【瞳の視線】に気づいていた。そして、その【瞳】こそ

が【彼自身】だということにも・・・。だけど彼は、「視線に気づいてないふり

」をする事で【瞳】を頑なに拒み続けていたんだ。

恐れていたんだ・・・。地位、恋人、仕事、金、絆、夢、愛・・・、今まで重ね

てきた暮らしの中で手に入れたモノを失ってしまうことを・・・。自分の真実

の心を受け入れることによって、今の暮らしが崩れ去ってしまうことを。

誰もが沈黙した心の中で「それぞれの真実」を抱え、人知れずいつも現

実の片隅で「自分自身」に傷ついている。だから、きっと人々は傷み止ま

ない心全てを委ねることの出来る「安らぎ」や「愛」を誰かの心の中に探し

求めて、また今日も他人の心の中を渡り歩いてゆくのだろう。

誰一人として、自分の心の中に宿る愛の姿は見つめようとはせずに・・・。

                               〜The silence eyes〜