二、三日前に見たテレビ番組の中のトークで、西川口あたりを徘徊する三流の売春婦よりも下品に見えるコギャルが、リズム感のない、たどたどしい口調で喋っていた言葉を思い出していた。  ・・・満員電車に毎日乗っている人は分かると思うんだけど、「オヤジの臭い」ってあるんだよ。それが本当に吐き気がするくらいたまらなくてさー・・・。 ・・・へぇー、どんな臭いなの? ・・・分からない、・・・例えようがない・・・。確かに僕もその独特の「臭い」に吐き気を感じていたんだ。彼女が何にも例えようがないってコメントしたのも無理はない。 朝の「集団ペッティング」の中で、僕はテレビに映っていたコギャルに投げようとした言葉を喉元まで込み上げた嘔吐物と一緒に飲み込んだ。
・・・キミハ マダ シラナイダロウヨ。イヤ、シラナクテイインダヨ。
・・・コノニオイハネ・・・、
「死臭」
彼らは、生きながら死臭を発している・・・。同じ朝をただ淡々と繰り返してゆくうちに、誰もが慣れてしまい、やがて自分が死臭を発する一人になったとしても全く気付かずに時を消化してゆくのだろう。 心を庇いたいが故に自分の殻に隠し、密封して、窒息死させた心の屍を大切に守りながら・・・。
かすかな人の隙間から外の景色が見えていた。電車と平行して走っている大きな貨物トラックが視界に入って来た。鉄格子が張られた後部の荷台には、家畜の豚が乗せられていた。
・・・何処かへ搬送されているのか。 ・・・1、2、3匹、アイツらチョロチョロ動き回るから、
目だけで数えるのは結構難しいな。 ・・・1、2、3匹、 ・・・・・9匹、・・・11匹、チッ、
またアイツらチョロチョロ動きやがって・・・、少しはじっとしてろよ、1、2、3匹、 ・・・・、
・・・・4・・匹、・・・・・・、・・・・・・・・・5・・・・匹、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やめた。
同じように何処かへ移動するのに、こんな身動きも取れない状態で苦痛に顔を歪めている今の俺は、間違いなく
豚以下だ


やり切れない気持ちで「歌」を失くした囚人護送電車を降りた。