++ 軌 跡 ++
 §2. 国境付近(未成年〜社会人)

リアルな夢 象るパーツを仲間たちと持ち寄って自由気ままに組み立ててみては、色々なアングルから写真を写して撮り終えれば すぐそれを壊して、違った形に組み替えては、また写真撮っていた。何枚も何枚も。シャッターを切った。何度も何度も。フラッシュが照らした屈託のない笑み、レンズに打ち明けた永遠の瞬間。

国境のすぐ近くまで差しかかった時期には、それまでずっと一緒に馬鹿を言い合って、ワイワイと戯れて過ごしてきた仲間たちは、どこか不自然な何となく冷めた“思い出作り作業”に明け暮れているようだった・・・。そうこれから辿る“道”の行き先が“在り来りな人生”へ続いているってことを何となく分かってたからだと思う。未成年から大人への国境を越えて、渇きと裁きが待ち伏せる社会の迷路の中に入ってしまえば“俺は俺だ”なんて言えるほど自分には確固たる信念が、胸を張れることが、これだけは絶対に譲れないって言える物が、全てを投げ捨てて夢中になれる物が、そして何よりも“勇気”がないって事を・・・きっとみんなそれぞれ自分の胸の中で、自分の“ちっぽけさ”を強く感じ始めていたんだと思う。自分がいつかやがて 矛盾だらけの社会にスポイルされ“システムの一部分”になり果て、周りも 自分もみんな同じ形の“標準型”に収束してしまった時、アルバムを開いて思い出を手繰り寄せれば、そこに写ったかつての自分を見て“これが俺”なんて言えるような思い出を・・・ せめてそんな慰めくらい残して置きたかったんだろう・・・。

みんな無意識の中で、国境を越える日に向けて“身支度”をしていたんじゃないのかな。だから どんな小さなことにでも つまらないことでも いつも大袈裟に派手にはしゃいだ。内容とか理由なんてどうでもよかった。とにかく常にテンションを高めていなければ不安で不安で仕方なくて、いつも誰かとツルんで、一人で過ごす時間を嫌った。

そして国境に着くまで ひたすら騒いで、笑って、冷やかして、はしゃいで、叫んで、ボルテージを上げて、その勢いに乗ったまま思い切り助走をつけて、社会の中へ飛び込んだ・・・ せめて ほんの少しでも遠くへ 遠くへ・・・ 1歩でも1センチでも先へ・・・このままで自分のままで 走って行けるところまで・・・と。
仲間たちは そこでみんなバラバラになった。あれから一度も会っていない。

アルバムに写っている“国境付近”でツルんでた仲間たちとは会わない方がいいと思っている。今になって みんな顔を合わせてしまえば、そこで俺達のアルバムは色褪せしてゆくと同時にその瞬間から先ずっと現実社会の中で“生きてゆくことの苦痛”に耐えて行けなくなる気がするんだ。まるで心に打っていた“麻酔”が切れてしまったように・・・。
どうしてかって? それは奴らもみんな俺と同じように“在り来り”にスポイルされちまってるだろうからさ。それぞれの個性とか、将来の可能性なんかをみんなで色々予想したりして、わくわくするような将来の姿をパンパンに膨らませたまま別れたんだから、今みんな集まって顔を合わせた所で、それぞれ今の自分の姿がみんなを幻滅させて今のみんなの姿に自分も幻滅させられるだけだから。きっと奴らも俺と同じようなこと感じているんだと思う。だから みんな誰ひとりとして連絡を取り合おうとしようとしない。
奴らも俺と同じように 思い出にすがって生きてるのかな・・・
                                                   (続く)