++ 軌 跡 ++ §1. 現在地 |
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朝の禁煙タイムにまたがる ラッシュアワーのステーション。 2番ホーム18分発、上の快速、前から3両目、2番目の扉、46分間のタコ詰め状態、駅を出て徒歩3分、8階建のオフィスビル、エレベーターに乗り4階のボタンを押す。 出てすぐ左 正面のドアを開け、右横に置かれたタイムカードを押す。 後は5時まで頭の思考回路を自動運転に切り替えて時間が過ぎて行くのを待つ。 在り来りな仕事、上司の在り来りな愚痴、経理の若い女子社員が すれ違い様に口にする在り来りな褒め言葉「そのネクタイすごく似合ってますね」在り来りで選んだネクタイの柄が俺にはよく似合っているらしい。 日常の他愛もない会話の中で俺自身も“在り来り”だってことを刻々と教えられる。 その度に無性に苛立ち、焦り、周囲の在り来りな同僚達と自分の相違点を躍起になって探そうとする。仕事、趣味、恋愛、収入、貯金、出世・・・。だけど どれを挙げてみても確かに俺は“在り来りな奴”だってことが、どんどん浮き彫りになってくるんだ。 休日の暇つぶしに 部屋の押し入れを整理してたんだ。そしたら 俺の昔のアルバムやら作文やら沢山出てきて、それを眺めているうちに自分が幼い頃からずっと辿って来た人生の軌跡をなぞりながら、俺、自分自身の中に隠してた本当の事を自分自身に色々と打ち明けていたんだ・・・。 (続く) |