++ その時二人は ++




その時二人は・・・

二人の思い出や記念に残る物など ひとつも残せなかったのに
貴方と出逢ってから今日まで 胸の中を駆け巡った
幾多の心模様ばかりが 鮮明に蘇って来る・・・

二人の思い出を こんなにもたくさん作って来たのに
心の中で 何ひとつ鮮明に思い出すことが出来ない・・・


その時二人は・・・

流れ去った時の長さを あんなにも短く感じていたのに
今は 二人がここまで分け合って来た 時の長さに
ただ疲れ果てている・・・

見送ってゆく時の長さが あんなにも長い年月に感じていたのに
今は たった これっぽっちしか過ごせなかった時の短さに
貴方への無力さを感じる。


あの時二人は・・・

愛し合いたいがゆえに 今日まで 互いに相手の姿だけを見つめたまま
互いの胸の中へと歩いて来たはずなのに
近づけば近づくほど 愛は二人から遠く離れて行った・・・


その時二人は・・・

照り続ける灼熱の日差しに 乾き果てていた心は
一滴の水に 潤いを取り戻し 救われたはずだったのに
今は 激しく降り続く雨の中 ずぶ濡れで震えている・・・

激しく降り続く雨に打たれ 凍えていた心は
柔らかな日差しに 温もりを取り戻し 救われたはずだったのに
今は 突き刺すように照り続く灼熱の日差しの中 
カラカラに乾き彷徨っている・・・


あれから二人は・・・

愛に辿り着けないがゆえに そっと離れて行ったはずなのに
遠く離れて行けば行くほど 二人は日毎に相手への愛しさを募らせ
ふと立ち止まり 辺りを見回してみては ため息を零し 歩き出し
そして また立ち止まり 互いの名を叫び 呼んでみては
ため息を零し 歩き出し・・・


そして二人は・・・

「なぜ・・・」 誰かに問う訳でもなく
ただ独り言のように心の中で 何度も何度も繰り返すだけだった・・・