◇子守唄◇
(1875年作/歌詞:A.ゴレニシチェフ=クトゥーゾフ/訳詩:Jun-T)

呻き、苦しみ、病の熱に身を灼かれつつ、

幼な児は薄暗い蝋燭の光に照らされて横たわっている。

傍らの母親は、愛するわが子を気遣いつつ、

つらく長い夜が終わるのを空しく待っている。

虚無の運び手、ひそやかな命の盗人である「死」が、

入り口の戸を叩く。

絶望して、母親は声もなく「死」を振り返る。

「死」:私が来たからとて怯えることはない。

    夜明けは近い、辺りも白々とし始めた。

    一晩中その子を看取り、悲しみ、

    おまえも疲れはてていることだろう。

    おまえはもう充分にその子の世話をした。

    もはや眠るがよい、私がその子のために子守唄を歌ってやろう。

    おまえの声は心配で昂ぶっている。

    見よ、その子は泣いているではないか。

    私がもっとうまくあやしてやろう。

母 親:静かにして!

    この子のことを思うと胸が張り裂けそう!

    このままではこの子は死んでしまう。

    こんなに辛いことはない!

「死」:その子を私によこすがよい。

    私が泣きやませてあげよう…

    いい子だ、よしよし、ねんねしな。

母 親:ああ、この子の顔はもう血の気をなくしてしまった!

    むずがりさえしない!

「死」:そら、熱も引いてきた…

    いい子だ、よしよし、ねんねしな。

母 親:やめて、この悪魔!

    おまえがその子に触れると、私には絶望しか残らなくなる!

「死」:いや、私はこの子を連れて行く。

    そしてこの子は、穏やかな眠りにつくのだ…

    いい子だ、よしよし、ねんねしな。

母 親:お願い、その子は私のものよ、連れて行かないで!

    もうその歌をやめて、そしてその子を放っておいて!

「死」:見よ、この子は眠りについた。

    もう誰にも目覚めさせることは出来ぬ…

    いい子だ、よしよし、ねんねしな。

(2005.7.1)

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