◇中田喜直/“マチネ・ポエティク”による四つの歌曲◇
(フルートとピアノのための)

1950年、中田喜直27歳の年の作品でございます。
初期の歌曲集としては「六つの子供の歌」と並んで双璧といえますが、単にそれにとどまらず、数ある中田喜直の歌曲集の中でも最高傑作と申してよい逸品ではないかと愚考いたします。

「福永武彦、中村真一郎、加藤周一氏等の詩人が1942年にマチネ・ポエティクを結成して、1948年に詩集を出した。当時新しい詩を探していた私は、この定型詩に興味を持ち四つの歌曲を作った。この中で『さくら横ちょう』が一番演奏されているが四曲を通して演奏すればなおよいと思う」(カワイ出版「中田喜直歌曲集」解説から引用)

作曲者が書いているように、「さくら横ちょう」だけは非常に有名でよく演奏されますが、他の3曲はあまり聴かれることのないのが実情でございます。
しかしながら、この4曲は全体でひとつの小さな交響曲を構成していると申してよく、「四曲を通して演奏すればなおよい」どころか、「この四曲は通して演奏されるべきである」というのが私の勝手な考えでございます。
重々しく厳粛な「火の島」に始まり、「さくら横ちょう」はスケルツォ、「髪」は重厚ながら豊かな旋律性をもった緩徐楽章、そして快速調の「真昼の乙女たち」はもちろん全曲のフィナーレ。
そんなふうに聴くことで、この歌曲集のもつ魅力がさらに深まるのではないか、と私などは思うのですが、いかがでしょうか?

ここでは、この4曲をフルートとピアノで演奏してみました。各曲それぞれに楽器を変えてみたい気もしたのですが、全曲を交響曲あるいはソナタに見立てますと、やはり楽器は一種類で統一した方がよいのではないかと考えた次第でございます。

〜火の島〜
詩は福永武彦(1918-79)によるもの。死と生をテーマとした詩の内容にふさわしく、重い足取りで始まりますが、随所に近代フランスふうの和声処理が見られ、ほの暗い中にも格調い音楽となっております。

〜さくら横ちょう〜
詩は加藤周一(1919-2008)によるもの。失われた恋をさり気ない軽やかさの中で歌い上げております。やや和風の旋律がフォーレを思わせるピアノ伴奏に乗って流れる、たいへん魅力的な曲でございます。

〜髪〜
詩は原條あき子(1913-2004)によるもの。前後のレチタティーヴォに挟まれて、たっぷりとした歌が繰り広げられます。官能性を秘めた歌の部分ばかりでなく、レチタティーヴォもきわめて美しく書かれており、実に見事な作品と申せましょう。

〜真昼の乙女たち〜
詩は中村真一郎(1918-97)によるもの。テンポの指定はAndantinoながら快適な速度感をもち、曲想も変化に富んでおります。最後の部分ではそれまでの嬰へ短調から嬰ヘ長調に転調し、全曲のフィナーレにふさわしい明るい響きで曲を閉じております。

(2011.3.8〜3.15)
◇編曲・MIDIデータ作成:Jun-T  ◇録音:jimma

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