キュイ歌曲集
(C.A.Cui : Songs and Romances)

「ロシア五人組」の中で今日もっとも演奏されない人といえば、間違いなくツェーザリ(セザール)・キュイでございましょう。
ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー=コルサコフにはそれぞれ複数の代表作があって世界各地で演奏されており、バラキレフも前記3人ほどの演奏頻度はないにしても、「イスラメイ」「タマーラ」「交響曲第1番」などの代表作があるのに対し、キュイの作品を耳にすることは、特に日本ではまずないと申してよろしいのではないでしょうか。

ところが、人気というのはわからないもので、19世紀当時のロシアでは、キュイは少なくともムソルグスキーよりは高く評価されていた節がございます。
たとえば、チャイコフスキーはメック夫人に宛てた手紙の中で、こんなことを書いております。(以下の引用は森田 稔「新チャイコフスキー考」より)

「キュイは才能のあるディレッタントです。彼の音楽は独自性はありませんが、エレガントで、優雅です。あまりに色っぽくて、言ってみれば、手入れがよすぎて、したがって初めは気に入られますが、すぐに飽きられてしまいます。(中略)しかし、繰り返しますが、彼にはやはり才能があります。少なくとも趣味と感覚があります」

これだけ読みますと、そんなに褒めてもいないようですが、同じ手紙のボロディンとムソルグスキーについて書かれた部分を見れば、チャイコフスキーがキュイをどう考えていたのかよくわかります。

◇ボロディンについて
「彼は知識の不足から身を誤りました。それで、彼はキュイほどの趣味もなく、技術があまりに足りないので、他人の援助がなくては一行も作曲することができません」

◇ムソルグスキーについて
「この人は友人キュイがいつもこせこせしているとはいえ、礼儀正しく優雅であるのと正反対です。彼は反対に自分の教養のなさを売りものにし、無知を誇りとして、出たとこ勝負でいい加減にやって、ただただ自分の天才を信じ込んでいるだけです」

いま読んでみますと首をかしげたくなるような評価ではございますが、当時としてはこれが一般的な見方だったのかもしれません。

キュイはフランス人の父とロシア人の母との間に生まれ、ロシア陸軍の軍人として中将まで昇りつめた人物でございます。専門は築城学で、その分野ではロシア屈指の権威となりました。音楽活動は軍務の余暇を縫って生涯続けましたが、今日では作品よりもむしろその辛辣きわまる批評で名を残しております。
作品数はおそらく「ロシア五人組」の中でも最多と思われますが、交響曲や協奏曲のような大がかりな器楽作品は残さず、若干の管弦楽曲・室内楽曲と15曲に上るオペラの他は、主としてピアノのための小品と歌曲で占められているようでございます。
かくいう私もキュイの作品は聴いたことがなく、今回入手しました何曲かの歌曲の楽譜で初めてその音楽に接した次第でございます。

このたび、「あそびの音楽館」では、キュイの歌曲を独奏楽器とピアノ伴奏の形で再現してみることにいたしました。
歌詞につきましては、藤井宏行様の御訳を使わせていただいております。どうもありがとうございますm(__)m
また、各曲の詳細につきましては、「梅丘歌曲会館・詩と音楽」に詳しい解説が掲載されております。こちらもぜひご覧になってくださいm(__)m


 ツァールスコエ・セロの彫像 (The Statue At Czarskoe-Selo)  歌 詞

 「あなた」と「あなた」 (You And Thou)  歌 詞

 願い (Wish)  歌 詞

 焼かれた手紙 (The Burnt Letter)  歌 詞

◇あそびのエトセトラに戻ります◇
◇背景画像提供:フリー写真素材Canary様
◇編 曲・MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma