1915年から17年にかけて、山田耕筰は数多くのピアノ曲を作曲しました。実際のところ、山田耕筰が生涯に残したピアノ曲の70%ほどが、この3年間に書かれております。
「源氏楽帖」は1917年作の小品集で、本来はオーケストラのための作品として着想されておりました。山田は管弦楽組曲のスケッチとしてピアノ・スコアの形でこの曲を書き上げたものの、オーケストレーションされたのは第6曲、第7曲の2曲のみでした。
1917年7月にピアノ組曲として初演された際、各方面から寄せられた批判に対し、山田耕筰はこの作品は「源氏物語」のストーリーを音楽化したものではなく、物語に対する作曲者の心の反映(物語を通して作曲者が聴き得た「ある声」)である、と反論しております。
全曲は7つの小品から構成され、それぞれに「源氏物語」からの巻名が記載されております。
一般に、「源氏物語」54帖はその内容から3つの部分に大別されますが、「源氏楽帖」はそのすべてが第1部に拠っております。
作曲に用いられた手法は尖鋭なものではないとはいえ、印象派的な音の使用など1917年当時の世界の音楽的潮流に目を向けつつ、日本的な音遣いも聴き取られ、この時期の山田耕筰の野心が感じられます。
なお、この曲集では、曲の番号がよくある「第〇曲」というような数え方でなく、い・ろ・は……で表されております。古典である「源氏物語」に因む作品なので、曲の番号も古風にしたのかもしれません。