ウェーベルン/ピアノのための変奏曲 作品27 (Anton von Webern : Variationen für Klavier, Op.27) |
1934年から36年までの3年間は、寡作のウェーベルンとしては珍しいほど多産な時期でございました。 まず、1934年に「『道なき道』からの3つの歌曲」(作品23)、「9楽器のための協奏曲」(作品24)、「ソプラノとピアノのための3つの歌曲」(作品25)と3つの作品が立て続けに完成。 翌1935年には合唱と管弦楽のためのカンタータ「眼の光」(作品26)、バッハの「6声のリチェルカーレ」のオーケストレーション(作品番号なし)。 そして1936年、まる1年以上をかけた「ピアノのための変奏曲 作品27」が完成します。 全面的な十二音技法による作曲を試みて以来12年、53歳のウェーベルンの創作力はきわめて充実しておりました。作品番号をもつピアノ曲としては唯一のこの作品は、そのような時期に書かれ、ウェーベルンの十二音技法による器楽作品を代表する傑作となりました。 第1楽章を完成した後の1936年7月、ウェーベルンは次のように書いております。
「仕事のよく捗った時期でした。新しい作品の一部をすでに書き終えました。書き終えたのは変奏曲形式のひとつの楽章です。全体は一種の組曲になるでしょう。この変奏曲では、数年来考え続けてきたあるものを実現できたと思っています。新しい詩篇に熱狂したエッカーマンにむかって、ゲーテはある日、実はそれについて40年考えてきたのだ、と語ったそうですが」 (店村新次・訳)
控え目ながらも、ウェーベルンのこの曲に対する誇らしい気持ちが伝わってくるようでございます^^
全曲は3つの楽章から構成され、それぞれの楽章は作品のタイトルが示すとおりの変奏曲となっております。ただし、ここでいう「変奏曲」とは通常の「主題とその変奏」という概念とは異なり、基本になる十二音の音列による「基礎的構造」とその変奏に拠っております。
第1楽章は全曲の前奏曲的意味合いをもつ楽章で、以下の音列を構成要素としております。
【基本形】
【逆行形】
【反行形】
【逆反行形】
【基本形】は文字通りこの音列の基本の形でございます。これを最後の音から逆に辿りますと、音列の【逆行形】が得られます。また、【基本形】の音程関係を上下逆にいたしますと【反行形】になり、【反行形】の音列を最後の音から逆に辿れば【逆反行形】が出来上がります。
さて、第1楽章の冒頭は以下のようになっております(楽譜をクリックすると拡大されます)。
第2楽章は通常のソナタでいえばスケルツォに相当する楽章で、反復される2つの部分から構成されております。各部分はそれぞれがまた2部に分かれ、前半の「基礎的構造」を後半で変奏する、という形をとっております。
第3楽章はこの曲中最大の楽章で、「基礎的構造」と5つの変奏で構成された本格的な変奏曲となっております。曲は静かに始まり、変奏が進むにつれて細分化されたリズムで高まった後、静寂の中に消えていく、という構想で作られております。
十二音技法の曲と申しますと、なんだか知的操作のみで組み立てられた音楽のようなイメージをもたれる方もいらっしゃるかと思いますが、ウェーベルンの音楽は、厳格・緻密に書かれているにもかかわらず、シェーンベルクの場合のような晦渋味が私には感じられません。特に「交響曲」以降の作品には、清涼なリリシズムさえ聴きとれる気がいたします。 |
ピアノのための変奏曲 作品27・全曲連続再生 | ||
第1楽章:きわめてほどよく (I. Sehr mäβig) | ||
第2楽章:きわめて急速に (II. Sehr schnell) | ||
第3楽章:穏やかに流れるように (III. Ruhig flieβend) | ||
◇あそびのエトセトラに戻ります◇ | |
◇背景画像提供:フリー写真素材Canary様 | |
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma | |