チャイコフスキー/モーツァルティアーナ 作品61
(Tchaikovsky : Mozartiana, Op.61)

幼い頃、初めて「ドン・ジョヴァンニ」を聴いて以来、モーツァルトの音楽はチャイコフスキーにとって敬愛の対象でございました。実際いくつかの作品、「ロココの主題による変奏曲」や弦楽セレナード、さらに後年の「スペードの女王」などには、チャイコフスキーのモーツァルト愛の一端がうかがわれます。

1884年の春、「フィガロの結婚」を調べているうちに、チャイコフスキーはモーツァルトの作品をオーケストレーションした組曲を着想いたします。このときは他の作品の作曲のため、実際に着手されることはありませんでしたが、1886年になると、チャイコフスキーはモーツァルトのピアノ曲から組曲の原曲となる作品を選び、オーケストレーションの準備を始めます。しかし、このときも別の仕事が優先され、組曲の作曲は先送りされました。
翌1887年、この年は「ドン・ジョヴァンニ」初演100周年でしたが、いよいよチャイコフスキーは念願のモーツァルトに基づく組曲に取り組みます。6月から7月にかけて、チャイコフスキーはこの組曲に集中し、「主題と変奏」「祈り」「ジーグ」「メヌエット」の順で4つの楽章を完成させました。
作曲中の6月に、チャイコフスキーは出版者のユルゲンソンに宛てた手紙で、以下のようなことを書いております。

「私は毎日約1時間、モーツァルトのピアノ曲のオーケストレーションに夢中になっていて、他のことを何もしていません。私の考えでは、この作品はよく吟味され、各楽章とも際立った性格をもっています。ただひとつ問題があります。それは、この組曲にどのような曲名を与えるべきかわかりかねることです。……私はこの作品を『モーツァルティアーナ』としたくはないのです。それはシューマンの『クライスレリアーナ』を連想させるので」

これに対して、ユルゲンソンは「クライスレリアーナ」についての心配は無意味であり、ぜひとも「モーツァルティアーナ」にすべきであると説得し、結局チャイコフスキーはその意見を受け入れました。
「モーツァルティアーナ」は1887年11月にチャイコフスキー自身の指揮で初演され、成功を収めました。

この時期までに、チャイコフスキーは管弦楽のための組曲を3曲発表しており、「モーツァルティアーナ」はこの種の作品では4番目にあたりますが、チャイコフスキー自身はこれを「組曲第4番」とはしておりません。けれども、今日では作曲家の考えとは別に、「組曲第4番」とされるのが普通でございます。

全曲は4つの楽章から構成されております。原曲はモーツァルト作曲のピアノ曲でございますが、第3楽章「祈り」のみ、「アヴェ・ヴェルム・コルプス」をリストがピアノ用に編曲したものに基づいております。
各楽章の原曲は以下のとおりです。

第1楽章:「小さなジーグ」K. 574
第2楽章:「メヌエット」K. 355
第3楽章:リスト「システィナ礼拝堂にて」から「アヴェ・ヴェルム・コルプス」K. 618
第4楽章:「グルックの『予期せぬ邂逅、またはメッカの巡礼者たち』の主題による10の変奏曲」K.455

ここで取り上げておりますピアノ連弾版は、ランゲル(Eduard Langer;1835〜1905)という人による編曲でございます。
本来ピアノ曲である4つの曲のオーケストラ編曲をピアノ連弾で演奏するってのはどういう意味?という気もいたしますが、深い考えもなく掲載しております。
ピアノで演奏された「モーツァルティアーナ」、お楽しみいただければ幸甚でございます。


モーツァルティアーナ 作品61・全曲連続再生 

第1楽章/ジーグ(I. Gigue) 
第2楽章/メヌエット(II. Menuetto) 
第3楽章/祈り(III. Preghiera) 
第4楽章/主題と変奏(IV. Tema con variazioni) 

◇「あそびのピアノ連弾」に戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:E. ランゲル ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma