チャイコフスキー/弦楽四重奏曲第1番 ニ長調 作品11
(Tchaikovsky : String Quartet No.1 in D major, Op.11)

1871年の初め、モスクワ音楽院で教鞭を執っていた31歳のチャイコフスキーに、院長のニコライ・ルビンシテインはオール・チャイコフスキー・プログラムの演奏会の開催を勧めます。作曲家デビューからおよそ5年、徐々にロシア楽壇で地位を築きつつあったチャイコフスキーにとって、この提案は魅力的なものでした。ただし、経費の面から室内楽サイズの作品でプログラムを組む必要があり、その種の作品が少なかったチャイコフスキーは、プログラムのメインとして弦楽四重奏曲を書くことになりました。

こうして着手された第1弦楽四重奏曲は2月中に書き上げられ、3月末にモスクワの貴族会館小ホールで初演されました。この曲はチャイコフスキーの3つの弦楽四重奏曲の中ではもっとも好評で、とりわけ第2楽章の「アンダンテ・カンタービレ」はしばしば単独で演奏されるほど有名になりました。
初演から死の年の1893年まで、記録に残る限りでは15回演奏されておりますが、そのうち「アンダンテ・カンタービレ」のみの演奏は7回を数えます。
1876年、トルストイを迎えて開かれた演奏会で、「アンダンテ・カンタービレ」を聴いた文豪が感動のあまり涙を流したというのは有名な話です。

全曲は4つの楽章から構成され、基本的には伝統的な形式に準拠しております。特に、第1楽章と第4楽章で提示部が反復されるのはチャイコフスキーとしては珍しいことでございます。
ただし、楽想は明らかにロシア国民楽派寄りで、民謡ふうのイディオムが随所に見られます。とりわけ第2楽章にはウクライナ民謡の「ヴァーニャは椅子に座ってラム酒を注いだ」が使われていますが、チャイコフスキーはこれをカメンカで1869年に聴いたということでございます。

ここで取り上げておりますピアノ連弾用のスコアは、チャイコフスキーの友人でピアニストのアレクサンドラ・ユベルト(Aleksandra Ivanovna Hubert;1850〜1937)による編曲でございます。
ピアノのみで演奏された弦楽四重奏曲第1番、お楽しみいただければ幸甚です。


弦楽四重奏曲第1番ニ長調作品11・全曲連続再生 

第1楽章/モデラート・エ・センプリーチェ(I. Moderato e semplice) 
第2楽章/アンダンテ・カンタービレ(II. Andante cantabile) 
第3楽章/スケルツォ:アレグロ・ノン・タント(III. Scherzo : Allegro non tanto) 
第4楽章/フィナーレ:アレグロ・ジュスト(IV. Finale : Allegro giusto) 

◇「あそびのピアノ連弾」に戻ります◇
◇編 曲:A. ユベルト ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma