ストラヴィンスキー/火の鳥
(Igor Stravinsky : The Firebird)

20世紀最大の作曲家の一人とされるストラヴィンスキーは、60年以上にわたる創作期において、3つの大きく異なる作風を見せております。
最初の時期は「原始主義」といわれ、デビューから1920年頃までのおよそ15年間ほど。次の「新古典主義」の時代は1950年頃までのおよそ30年間。最後の「十二音の時代」は1965年頃までの約15年間。
一人の作曲家が生涯の間に作風を変遷させるのは珍しいことではありませんが、ストラヴィンスキーの場合はそれまでのこの作曲家に対するイメージが激変するほどの破壊力があり、「カメレオン作曲家」とあだ名されるほどでございます。
ストラヴィンスキーの作品中、もっともよく知られているのは「原始主義」の時代のもの、とりわけ「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」の3作と申せましょう。

「火の鳥」はストラヴィンスキーの名を世界的にした最初の作品でございます。1909年、ストラヴィンスキー27歳の年の作曲で、バレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の委嘱によって書かれました。
バレエ・リュスはロシアの音楽プロデューサー、ディアギレフ(Sergei Diaghilev;1872〜1929)が主宰するバレエ団で、1909年から1929年までの20年間、パリを中心としてヨーロッパ各地を巡業し、20世紀音楽に多大な刺激を与えた存在でした。
1909年のパリにおける旗揚げ公演のプログラムのひとつ、ボロディンの「韃靼人の踊り(ポーロヴェツ人の踊り)」は大きな反響を呼び、公演が大成功したことで、既成の曲ばかりでなく、新作を積極的に取り上げることをディアギレフは決断いたします。

ディアギレフが次のシーズンの新作として選んだのは2つのロシア民話、火の鳥と魔王カスチェイの物語を結び付けた題材で、当初はチェレプニン(Nikolai Tcherepnin;1873〜1945)が作曲を担当するはずでした。ところが理由は伝わっておりませんが、チェレプニンが辞退したため、ディアギレフはリャードフ(Anatoly Lyadov;1855〜1914)に話を持ち込みます。しかしこれもうまくいかず、グラズノフ(Aleksandr Glazunov;1865〜1936)やソコロフ(Nikolay Sokolov;1859〜1922)にも依頼したらしいのです。
これらの作曲家は、当時はそれぞれに名声を確立しており、ディアギレフとしては本音では実績のある人物に依頼したかったのではないかと思われます。けれども、当てがすべて外れたため、ディアギレフはまだ若手で一般には無名に近かったストラヴィンスキーに作曲を依頼することにいたしました。この人選は、後世から見ればまさに大当たり、最善の選択と申してよろしいものでした。

ディアギレフの依頼を受けたストラヴィンスキーは、半年ほどで曲を書き上げます。そして新作バレエ「火の鳥」は1910年の6月にパリ・オペラ座で初演され、大成功を収めました。
この作品の成功で、ディアギレフは次の作品もストラヴィンスキーに依頼することになります。バレエ・リュスのために「ペトルーシュカ」「春の祭典」を書いたストラヴィンスキーの名は全世界に知られ、その音楽的地位を確立したのでございました。

「原始主義」といわれる初期のストラヴィンスキーの音楽は、19世紀ロシア国民楽派の延長線上にあり、そこに斬新なリズムや和声、近代的な作曲技法を盛り込んだものということができましょう。その頂点は「春の祭典」に体現されておりますが、「火の鳥」にもロシア国民楽派の基盤の上に築かれた音楽の新鮮さは明らかで、今日まで人気が持続しておりますのも当然という気がいたします。

「火の鳥」は22曲から成っておりますが、それらは切れ目なしに演奏されます。
ここではこの曲を、作曲者自身の手に成るピアノ独奏の編曲で掲載することにいたしました。
本来続けて演奏すべき作品を分割して掲載する関係上、実際の曲名と掲載した部分の曲名に若干の齟齬がございますが、その点はご了承願いたく存じます。
ピアノで聴く「火の鳥」全曲、お楽しみいただければ幸甚です。


火の鳥・全曲連続再生 

導入部〜カスチェイの魔法の庭園(Introduction - The Enchanted Garden of Kastchei) 
イヴァン王子に追われる火の鳥の登場 
 (Appearance of the Firebird, Pursued by Prince Ivan)
火の鳥の踊り(Dance of the Firebird) 
イヴァン王子に捕らえられた火の鳥〜火の鳥の懇願 
 (Capture of the Firebird by Prince Ivan - The Firebird's Supplications)
13人の王女の登場(Appearance of the Thirteen Enchanted Princesses) 
スケルツォ:黄金のリンゴと戯れる王女たちの遊び 
 (Scherzo : The Princesses's Game with the Golden Apples)
イヴァン王子の突然の登場〜王女たちの輪舞 
 (Sudden Appearance of Prince Ivan - Round Dance of the Princesses)
夜明け(Daybreak) 
魔法の鐘〜不死身のカスチェイの登場〜カスチェイとイヴァン王子の対話 
 (Magic Carillon - Arrival of Kastchei the Immortal - Dialog of Kastchei and Prince Ivan)
火の鳥の出現〜魔法にかかった手下たち〜カスチェイたちの凶悪な踊り 
 (Appearance of the Firebird - Dance of Kastchei's Retinue, Enchanted by the Firebird
  - Infernal Dance of all Kastchei's Subjects)
子守唄〜カスチェイの死(Lullaby - Kastchei's Death) 
大団円(General Rejoicing) 

◇あそびのエトセトラに戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編曲:I. ストラヴィンスキー ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma