シベリウス/10の小品 作品58
(Jean Sibelius : Ten Pieces, Op.58)

1908年の5月に、シベリウスはヘルシンキで喉の腫瘍を摘出する手術を受けました。この手術の成功を確信できなかった医者はドイツで再診断を受けるように勧め、シベリウスはベルリンの専門医フレンケルを訪ねます。フレンケルは再手術の必要を認め、6月に病根は摘出されました。
数年来シベリウスを苦しめていた喉の腫瘍はこれで完治したのですが、死を身近に感じさせたこの体験はシベリウスの作風に影響を与えないではいませんでした。

作品58は手術の翌年、1909年の作でございます。この年の作品を挙げてみますと、「シェイクスピアの『十二夜』からの2つの歌」「追悼のために」「弦楽四重奏曲(親愛の声)」など、死にまつわる作品、あるいは内的に沈潜していく作品が目につくような気がいたします。
ヤルヴェンパーの山荘「アイノラ」に移住した1904年頃から、シベリウスの作風は内面的、省略的な道筋を辿っておりましたが、死の足音を聞いて過した数年間に、それに19世紀ロマン主義的な音響をはみ出した近代的な書法が加わり、シベリウスのパレットはユニークさを増しておりました。
ピアノのための「10の小品」は、この新しいパレットによって描かれた、シベリウスのピアノ小品の中でもとりわけ斬新な作品集と申せましょう。
初期の作品のような耳に心地よいメロディは姿を消し、伸縮自在の時間感覚、新奇な和音、独特の多声的書法を含む一種奇妙な味わいをもった実験的な曲集が、この作品58なのでございます。

(2011.7.1〜7.22)

  1:夢(Rêverie) 
  2:スケルツィーノ(Scherzino) 
  3:変奏ふうアリア(Air varié) 
  4:羊飼い(Shepherd) 
  5:夕べに(In the Evening) 
  6:対話(Dialogue) 
  7:メヌエットのテンポで(Tempo di Menuetto) 
  8:漁師の歌(Fisherman's Song) 
  9:セレナーデ(Serenade) 
 10:夏の歌(Summer Song) 

 10の小品 作品58・全曲連続再生 

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◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma