シベリウス/10のバガテル 作品34
(Jean Sibelius : 10 Bagatelles, Op.34)

この曲集は「作品34」という番号を与えられておりますが、作曲年代はこの作品番号とはずいぶん乖離しております。
シベリウスの作品番号で30番台のものと申しますと、おおむね19世紀の終わりから20世紀の初頭にかけて書かれたものが多いはずですが(たとえば、作品39の第1交響曲は1899年)、作品34の10曲は、いずれも1913年から16年にかけて作曲されております。出版の都合なのかどうだか存じませんが、ちょっと首を傾げたくなります。
作曲時期を詳しく書きますと、第1曲から第5曲までは1914年、第6曲が1913年、第7曲から第10曲までが1916年、となっております。第4交響曲と第5交響曲という2つの傑作に挟まれたこの時期、シベリウスは北欧を代表する大作曲家としての風貌を明らかにしておりましたが、作品34のバガテルにはそうした「北欧の巨人」めいた重みはほとんどなく、ごく気楽に書き流されたような曲調の小品ばかりが並んでおります。
このような曲集の書かれた理由のひとつとして、1914年に始まった第1次世界大戦が考えられます。
シベリウスは主としてその作品の出版契約をドイツのブライトコップフ・ウント・ヘルテル社と結んでおりましたが、世界大戦ではドイツはフィンランドの敵国となったため、著作権料が一切支払われない状況になりました。国家年金を支給されてはおりましたが、それだけでは収入に不安をもっていたシベリウスは、この時期にかなりの数の小品を量産し、国内やスウェーデンなどの出版社から出版しております。シベリウスとしては、比較的ラクに収入を得る手段だったのでしょう。作品番号が妙に作曲時期と一致しないのも、もしかしたらそのような事情と関係があるのかもしれません。

「10のバガテル」は、いずれもサロン音楽ふうの小品ばかりで、これといって際立った個性を示すものではございませんが、この時期のシベリウスの一面を示すものとしての存在価値は、それなりにあると申せましょう。

(2019.3.24〜4.8)

  1. ワルツ(Valse) 
  2. 踊る感じ(Air de danse) 
  3. マズルカ(Mazurka) 
  4. クープレ(Couplet) 
  5. 道化(Boutade) 
  6. 夢(Rêverie) 
  7. 田園舞曲(Danse pastorale) 
  8. ハープ弾き(Joueur de harpe) 
  9. 感謝(Reconnaissance) 
 10. 思い出(Souvenir) 

 10のバガテル 作品34・全曲連続再生 

◇「シベリウス/ピアノ作品集」に戻ります◇
◇背景画像提供:Canary様
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma