シベリウス/ピアノ・ソナタ ヘ長調 作品12
(Jean Sibelius : Piano Sonata in F major, Op.12)

シベリウスは創作期間のほぼ全域に亘ってピアノ曲を書いておりますが、ソナタのような大形式の多楽章作品はほとんど残しておりません。オーケストラこそが自らの音楽的ファンタジーを最大限に繰り広げるのに最適なフィールドであると考えていたシベリウスにとって、ピアノ曲というジャンルは多くの場合、折々の感興に促されてさらりと書き流した短い音楽的エッセイのようなものであったのかもしれません。

シベリウスの残したピアノのための多楽章作品は5曲しかなく、その中でピアノ・ソナタはただ1曲だけでございます。
ヘ長調のこのソナタは作曲におよそ2年を費やし、1893年に完成された作品で、定石どおり急−緩−急の3つの楽章から構成されております。
初期の作品とはいえ、「クレルヴォ交響曲」「エン・サガ」「カレリア」「トゥオネラの白鳥」などの書かれた時期と重複しており、オーケストラの分野では早くもフィンランド初の世界的作曲家として頭角を現していたシベリウスのピアノ・ソナタ、はたしてどんな傑作かと期待して聴きますと、少々失望を味わうことになるかもしれません。
初期のシベリウスの作品の特徴のひとつとして、豊かな楽想、旋律の魅力が挙げられるのではないかと思いますが、このソナタではメロディメーカーとしてのシベリウスの強みが発揮されていないような気がいたします。その感は両端楽章で特に強く、随所に独特な音遣いの見られる個性的な作品でありながら、このピアノ・ソナタがいまひとつ訴求力に欠ける一因を成しているかと愚考いたします。
とはいえ、悠然たる歩みの中にプレストの部分を挿入して緩徐楽章とスケルツォ楽章の要素を融合させた第2楽章など、後年のシベリウスを予見させるところもあり、じっくり聴けばそれなりの面白さをもつ作品であることも事実でございます。

シベリウスはこの後、ピアノ音楽の方面では、およそ10年後の組曲「キュッリッキ」を経て、20年後の「3つのソナチネ」の高みに達するのでございますが、多楽章ピアノ作品の第1作であるこのピアノ・ソナタを、その長い道程の最初の一歩ということで、同情をもってお聴きいただければ幸いでございますm(__)m

(2008.8.31〜9.2)

 ピアノ・ソナタ ヘ長調 作品12・全曲連続再生 

 第1楽章:アレグロ・モルト(I. Allegro molto) 
 第2楽章:アンダンティーノ(II. Andantino) 
 第3楽章:ヴィヴァーチッシモ(III. Vivacissimo) 

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◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma