スクリャービン/交響曲第1番ホ長調 作品26
(Alexander Scriabin : Symphony No.1 in E major, Op.26)

19世紀終わり頃のロシアには、チャイコフスキーやリムスキー=コルサコフらの後継者として、若い世代の作曲家たちが続々と現れました。アレンスキー(1861-1906)、グラズノフ(1865-1936)、カリンニコフ(1866-1901)、ラフマニノフ(1873-1943)、そしてアレクサンドル・スクリャービン。
こうした人々の中で、スクリャービンはその独特の思想に由来する音楽の特異性で際立っております。

はじめピアニストを目指したスクリャービンは、同級生のラフマニノフに強い対抗心を抱いたそうですが、無理な練習が祟って右手首を損傷し、作曲に力を入れるようになります。

Alexander Scriabin
痛めた右手首は後に回復しますが、この時期に左手を猛特訓して独自のピアノ奏法を開発し、ヨーロッパとアメリカでピアニストとしての名声も高まります。

スクリャービンはリストとショパンに強い影響を受け、とりわけショパンを愛しており、初期のピアノ作品群は「ロシアのショパン」を目指して作曲されたと申しても過言ではございません。
しかしワーグナーの音楽を体験し、さらにニーチェの哲学や神智学にのめり込むようになると、次第に自己神格化が始まり、やがて現世を超越した恍惚境、法悦境を具体化するために、4度音程を積み重ねた神秘和音を開発するに至ります。
スクリャービンが最終的に目指したのは、ワーグナーの楽劇をも超える総合芸術、音楽だけでなく、舞踊や色彩、香りまでも取り込んだ壮大な神秘劇の創作でした。しかしながら、そうした目論見が神の怒りに触れたのでしょうか、わずか42歳という若さで、スクリャービンはこの世を去ってしまいます。

さて、スクリャービンには交響曲とされる作品が全部で5曲ございます。ただし、第4と第5に相当する「法悦の詩」と「プロメテウス(火の詩)」には、作曲家自身によるナンバリングはございません。第3番の「神聖な詩」以降、スクリャービンの作風は独自性を増しており、「法悦の詩」と「プロメテウス」はスクリャービンにとって、もはや交響曲ではなかったのかもしれません。

ここで取り上げました第1交響曲は、1899年から1900年、スクリャービン27歳の頃に書かれた作品で、後年の神秘思想に染まった作風にはほど遠く、清新な抒情性に溢れた青春の交響曲、といった風情がございます。
全曲は6楽章で構成されており、最終楽章には独唱と合唱が加わります。第1楽章と第6楽章は共通の主題をもち、その間に通常の4楽章構成の交響曲が挟まれる、という形態をとっております。
歌詞はスクリャービン自身の作で、芸術を讃える内容になっているため、この交響曲は「芸術賛歌」と称されることもございます。

<芸術に栄光あれ> 詩:アレクサンドル・スクリャービン/訳詩:藤井 宏行

  おお 神の偉大なる御姿
  純粋なる芸術の調和よ
  御身にわれら皆で捧げん
  恍惚なる感情への賛美を

  御身こそ人生の輝ける夢
  御身は祝祭、御身は安息
  人々にもたらされた贈り物なのだ
  その魔法の幻影は!

  暗くて冷たい時にあって
  魂がすっかり惑う時に
  御身のうちに人は見出だす
  慰めと忘却の生きる喜びを

  御身の力は 戦いに倒れた者を
  奇跡に満ちて生へと呼び返す
  疲れ病んだ心の中に
  御身は考えさせる 新しい秩序が生まれているのだと

  御身は感じ取る 広い大海原を
  喜びに満ちた心に生まれた大海原を
  そして 最高の讃歌を歌うのだ
  御身の司祭は御身を触発する

  全能なるお方は君臨する この地上に
  御身の精神は 自由にして強大
  御身は人々を高みへと導き
  最高の偉業を達成する
  来たれ 世界のすべての人々よ
  芸術の栄光を讃えよう!

  芸術に栄光あれ 永遠に栄光あれ!

ピアノ連弾への編曲は、アレクサンドル・ヴィンクラー(Alexander Winkler, 1865-1935)によるものです。ヴィンクラーという人について、私はまったく存じませんが、作品もある程度出版されているロシアの作曲家のようでございます。
ピアノ連弾によるスクリャービンの第1交響曲、多少なりともお楽しみいただければ幸甚に存じますm(__)m


 交響曲第1番ホ長調 作品26・全曲連続再生 

 第1楽章:レント(I. lento) 
 第2楽章:アレグロ・ドラマティコ(II. Allegro dramatico) 
 第3楽章:レント(III. Lento) 
 第4楽章:ヴィヴァーチェ(IV. Vivace) 
 第5楽章:アレグロ(V. Allegro) 
 第6楽章:アンダンテ(VI. Andante) 

◇あそびのピアノ連弾に戻ります◇
◇背景画像提供:「自然いっぱいの素材集」
◇編曲:A. ヴィンクラー ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma