サティ/いやな気取り屋の3つの高雅なワルツ
(Erik Satie : Les trois valses du précieux dégoûté)
1914年の7月21日から23日までの3日間、サティは毎日1曲ずつピアノのためのワルツを書き、3曲をまとめて「いやな気取り屋の3つの高雅なワルツ」と題しました。
自作に奇妙な曲名を付けるのはサティにはデフォルトのようなものですが、この曲集の場合は、1911年に作曲され、オーケストラ版が1914年2月に初演されたラヴェルのピアノ曲「高雅で感傷的なワルツ」が反映されているのではないかと思われます。と申し上げますと、「いやな気取り屋」はラヴェル本人を指すような気がいたしますが、サティとラヴェルの関係は友好的であり、サティにはこの年少の友人に対する個人的悪意などはなかったかと存じます。
当時の音楽界に蔓延していた似非ドビュッシー的、似非ラヴェル的風潮への皮肉として、サティはこのような曲名にしたのではないでしょうか。

3つのワルツはいずれもごく短い曲ですが、各曲の冒頭にはラ・ブリュイエール、キケロ、カトーの著作からの引用が前口上のように掲げられ、また、曲中にサティによる詩句のようなものが随所に書き込まれております。
その例をいくつか挙げてみますと、

第1曲「彼の腰」
彼は自分自身を見る。
彼は古い歌を口ずさむ。
そして、彼は自らの容姿に満足する。
彼を美しくないなどという者がこの世にあろうか?(以下略)

第2曲「彼の鼻眼鏡」
彼は毎日、銀の飾りのついた金縁の鼻眼鏡を磨く。
それは、ある美しい女性から贈られた品だ。
しかし、悲しいことに、彼はこの鼻眼鏡のケースをなくしてしまった!

第3曲「彼の脚」
彼は大きな誇りをもっている。
だれもが自分の好きなダンスばかり踊る。
彼らの脚さばきは美しい。
夕べには、みな黒い服で身を包む。
彼らは憂鬱の中に身を落とす。(以下略)

といった具合で、私の理解力の限界もあり、意味不明な語句も少なくございません。

それはともかく、曲はすべて調号も小節線もない当時としては破天荒(サティにとっては通常運転)な書法で記譜されておりますが、実質は3拍子のワルツのリズムで貫かれております。
中庸のテンポ、緩やかなテンポ、快速なテンポで構成された3つのワルツは、単品でというよりは、全曲一貫して演奏されることを想定して書かれた曲集のように思われます。

(2021.5.29〜5.31/Jun-T)

いやな気取り屋の3つの高雅なワルツ・全曲連続再生 

第1曲:彼の腰(I. Sa taille) 
第2曲:彼の鼻眼鏡(II. Son binocle) 
第3曲:彼の脚(III. Ses jambes) 

◇「サティ/ピアノ作品集」に戻ります◇
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma