ルビンシテイン/ピアノ連弾のためのソナタ ニ長調 作品89
(Anton Rubinstein : Sonata for Piano Four Hands in D major, Op.89)

Anton Rubinstein アントン・ルビンシテインは19世紀ロシアのピアニスト・教育者として偉大な足跡を残しておりますが、作曲家としての名声は死後急速に失われ、その膨大な作品の多くは今日顧みられることがございません。知名度の大きさにもかかわらず、忘れられた作曲家のひとりに名を連ねていると申してもよろしいでしょう。

ドイツで修行を積み、ロシア最初の音楽学校の創立者となったルビンシテインは、ロシアにドイツ流の正統的音楽技法を根付かせようと努めました。音楽学校の第1期生であったチャイコフスキーは、ルビンシテインの厳格な指導に感謝しつつも、恩師の自作に対する冷淡な評価についての恨みごとを、卒業してから15年も経た時期の日記の中で述べております。

ベートーヴェンを敬愛し、メンデルスゾーンとシューマンに同時代の音楽の理想像を認めていたルビンシテインにとって、チャイコフスキーの音楽は、なにやら鼻持ちならないものに感じられたのかもしれません。

ここに取り上げた作品は、ルビンシテイン唯一の、ピアノ連弾(1台4手)のためのソナタでございます。
作曲は1875年、ルビンシテイン46歳の年で、ボロディン、ムソルグスキーに代表されるロシア国民楽派が重要な作品を発表し始め、同時に教え子であるチャイコフスキーが頭角を現してきた時期にあたります。
そのような時代に書かれたルビンシテインのこの曲は、目立ったロシア的な要素をほとんど含まず、ある意味頑固にドイツ・ロマン派的な音楽様式を守り続けております。
私はルビンシテインの曲をほんの数曲しか聴いたことがございませんので、確かなことは申せませんが、どうもルビンシテインは自作をじっくり練り上げ、推敲するということをあまりしなかったのではないか、という気がいたします。
この曲でも、あちこちに冗長な箇所が見受けられ、もっと無駄を削って全体を引き締めれば、より効果的で魅力的な作品になったのではないかと惜しまれてなりません。

それはともかく、この曲は3楽章から成っておりますが、全体の構成は少々特異でございます。
第1楽章はソナタ形式の広大な楽章ですが、全曲の中でも特に冗長な部分が目立ちます。展開部や再現部には、特に大きな刈り込みを入れたくなる気がいたします^^;
第2楽章は急速なテンポのスケルツォ、第3楽章はアンダンテの緩徐楽章ですが、通常のソナタと異なり、緩徐楽章に続く快速の終楽章がございません。その代わり、アンダンテ楽章の結尾部分に第1楽章のコーダが再現し、やや強引に全曲を循環形式ふうに締めくくっております。
多楽章形式の作品を、いくつかの主要動機またはモットーで有機的に統一するという手法は、かつてシューマンによって効果的に実践されましたが、ルビンシテインはそれを意識したのでありましょうか。
ただし、この曲におきましては、シューマンに見られるような構成への緻密な心配りはなく、少々唐突かつ大雑把な印象を与えるのは残念なところでございます。

この作品を取り上げましたのは、世間にはありそうで意外に少ない「連弾用のソナタ」という曲種に興味を惹かれたのが最大の理由でございます。
この曲に録音があるのかどうか存じませんが、私は実際の演奏を聴いたことがございません。したがいまして、弊サイトの演奏は私が楽譜から好き勝手にイメージした結果で、本来の曲の持ち味を大いに損なっている可能性大でございます。この点、あらかじめご容赦願い上げますm(__)m


ピアノ連弾のためのソナタ ニ長調 作品89・全曲連続再生 

第1楽章:モデラート・コン・モート(I. Moderato con moto) 
第2楽章:アレグロ・モルト・ヴィヴァーチェ(II. Allegro molto vivace) 
第3楽章:アンダンテ ― アレグロ・アッサイ(III. Andante - Allegro assai) 

◇あそびのピアノ連弾に戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma