リムスキー=コルサコフ/シェヘラザード 作品35
(Rimsky-Korsakov : Scheherazade, Op.35)

リムスキー=コルサコフは「ロシア五人組」といわれる作曲家たちの作品を世に知らしめるという点で、もっとも大きな功績を残した人でございます。とりわけムソルグスキーの「ボリス・ゴドゥノフ」「禿山の一夜」やボロディンの「イーゴリ公」などは、リムスキー=コルサコフの努力がなければ世間の受容がはるかに遅れたことは間違いございません。
また、サンクト・ペテルブルグ音楽院の教授として、40年間近くにわたって多くの優れた作曲家を育てた教育者としての功績も見逃すことはできません。リャードフ、イッポリトフ=イヴァーノフ、グラズノフ、レスピーギ、ストラヴィンスキー、プロコフィエフなど、音楽史上著名な人々が、リムスキー=コルサコフの許で学んでおります。
さらに、リムスキー=コルサコフは「管弦楽法の大家」としても語られます。19世紀前半はベルリオーズ、後半はリムスキー=コルサコフがオーケストレーションの巨人として認識されているわけでございます。

さて、そのようなリムスキー=コルサコフの作品、特に管弦楽曲についてですが、今日の視点からすると、高い評価を得ている作品は意外に多くはございません。現代でも演奏されるレパートリーとしては、その名声に比較してむしろ少ないと申した方がよろしいでしょう。
3つの交響曲のうち、かろうじて一般に知られているといえるのは第2交響曲「アンタール」のみ。しかもこの作品は、後年作曲者自身によって「交響組曲」に改められたため、厳密にいえば番号付き交響曲として扱ってよいものかどうか微妙です。
次いで3つの作品、「スペイン奇想曲」「シェヘラザード」「ロシアの復活祭」は掛け値なしによく知られておりますが、実のところこの3曲で、リムスキー=コルサコフのオリジナルなオーケストラ曲は打ち止め。
その後は主としてオペラの作曲に力を入れたため、もはや独立した管弦楽のための作品は書かれず、生涯に残した15曲に上るオペラの多くもロシアの国境を越えることがなく、今日一般にはリムスキー=コルサコフは上記3曲、「アンタール」を入れてもせいぜい4曲の作曲者として認知されるのみでございます(「インドの歌」「熊蜂の飛行」など、オペラの一部は知られておりますが)。

しかしながら、管弦楽の作曲家としてのリムスキー=コルサコフの価値は「スペイン奇想曲」「シェヘラザード」「ロシアの復活祭」の3曲に凝縮されていると申してよく、この3曲がリムスキー=コルサコフのひとつの頂点を形作っていると申してよろしいかと存じます。

1887年から翌88年まで、リムスキー=コルサコフの創作熱は非常に高まっており、まず1887年に「スペイン奇想曲」が書かれ、次いで88年には「シェヘラザード」と「ロシアの復活祭」が相次いで作曲されました。すなわち、リムスキー=コルサコフの3つの傑作は、ほぼ1年間で書き上げられたということになります。
このうち最大の作品となったのが交響組曲とされた多楽章の「シェヘラザード」であるのは申すまでもございません。この作品は1888年の8月初頭に完成され、年内に初演されて成功を収めました。それ以降、「シェヘラザード」はリムスキー=コルサコフの代表作としての地位を維持し続けております。

「シェヘラザード」は「アラビアン・ナイト」に基づく標題音楽ですが、各楽章に付けられていた以下のような標題は、出版の際には削除されました。

第1楽章:海とシンドバッドの船
第2楽章:カランダール王子の物語
第3楽章:若き王子と王女
第4楽章:バグダッドの祭り。海。船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲

しかし、今日ではこの標題とともに聴かれるのが一般的でございます。
全曲はシャリアール王の主題とシェヘラザードの主題によって循環形式ふうに統一されておりますが、各楽章の構成はきわめてシンプルで、解説の必要などまったくないほどわかりやすい音楽となっております。

「あそびの音楽館」では、この作品を2台ピアノ版で公開することにいたしました。
色彩豊かなこの曲をピアノで演奏することで原曲の面白味が著しく損なわれるのはもとより承知しておりますが、万が一お楽しみいただければ幸甚でございます。


シェヘラザード 作品35・全曲連続再生 

第1楽章:ラルゴ・エ・マエストーソ(I. Largo e maestoso) 
第2楽章:レント ― アンダンティーノ(II. Lento - Andantino) 
第3楽章:アンダンティーノ・クアジ・アレグレット(III. Andantino quasi allegretto) 
第4楽章:アレグロ・モルト(IV. Allegro molto) 

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◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:G. ウンベール ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma