レーガー/モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ 作品132a
(M. Reger : Variationen und Fuge über ein Thema von Mozart, Op.132a)

レーガーは、名前が非常に長い(ヨハン・バプティスト・ヨーゼフ・マクシミリアン・レーガー)ので、一般には通称としてマックス・レーガーの名で知られる作曲家でございます。
19世紀末から20世紀初頭にかけて活動した人で、当時はリヒャルト・シュトラウスと並んで、ドイツ音楽の代表的作曲家として大きな存在感をもっておりました。
リヒャルト・シュトラウスがリストやワーグナーの後継者として交響詩やオペラの分野で活躍したのに対し、レーガーはオルガン曲や室内楽曲のような絶対音楽と歌曲を量産し、バッハやブラームスを受け継ぐ大家として知られました。
上で「量産」と書きましたが、実際レーガーは非常に多作の人で、作品番号の付けられたものだけでも140を超え、作品番号無しまで含めれば膨大な曲数となります。43歳という若さで没したことを考えますと、この作品量はメンデルスゾーンやシューマンなど、19世紀前半のロマン派の作曲家並みの多作家と申してよろしいでしょう。
ただし、レーガーは交響曲やオペラのような一般にアピールするようなジャンルの作品を残していないことや、作風が晦渋で通好みのところがあるため、死後には次第に演奏されなくなり、20世紀半ばを過ぎた頃には忘れられた作曲家のひとりになってしまいました。

レーガーの残した膨大な作品の中で、この「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」のみは、初演時から好評を得、一定の頻度で演奏され続けるレーガー唯一と申してよい人気作となっております。
この曲は1914年に作曲され、翌年レーガー自身の手で初演されました。
レーガーはこの曲について、「気品に満ちて、俗世の苦しみから解き放たれている」と語っており、最晩年に近い時期のレーガーの、複雑かつ晦渋な手法から明快で清澄さを湛える作風への転換の試みを示しております。

さて、レーガーはこの作品について、四手ピアノ連弾用、2台ピアノ用と、2種類の編曲を残しております。
四手用は原曲を忠実にアレンジしたものですが、2台用はより演奏効果を重視したもので、単独のピアノ作品として演奏されることを意図して書かれております。そのためか、第8変奏については原曲のものとはまったく異なる曲想の活動的な音楽を新たに書き下ろし、作品番号も原曲の作品132に対して「132a」を与えております。

全曲は8つの変奏とフーガで構成されておりますが、フーガは演奏時間の3分の1ほどを占める巨大なものでございます。
主題はモーツァルトのピアノ・ソナタイ長調、有名な「トルコ行進曲付き」で知られるK.331の第1楽章に拠るもので、本来変奏曲の主題として作られたこの非常によく知られた旋律を使うというのは、ある意味たいへん大胆だという気がいたします。
第1変奏は主調のイ長調、装飾豊かな背景の上で主題をそのまま生かし、第2変奏はヘ長調に転じて、主題が転回形で示されます。
第3変奏はイ短調となり、主題のリズムは均一化されていくぶん緊迫化した動きとなります。
第4変奏はホ短調、ヴィヴァーチェの活発な騎行のリズムで力強く進み、続くイ短調の第5変奏ではさらにテンポを増して一種のスケルツォ的な音楽を展開いたします。
第6変奏はニ長調、ふたたび緩やかなテンポとなり、第3変奏と同じく均一化された音価で主題が奏されます。第7変奏はヘ長調に転じ、主題はほぼ原型に近い形で現れます。
こうして見ると、速いテンポの第4・第5変奏を挟んで、第2・第3変奏と第6・第7変奏が対称を成しているといえなくもなさそうです。
第8変奏は、上述のように、原曲と2台ピアノ版では全然別の音楽でございます。
原曲では非常に遅いテンポの嬰ハ短調。悲歌的に始まり、表現の幅がたいへん大きい緩徐楽章的な聴き応えのあるもので、演奏時間も5分半と、ひとつの変奏としては異例の長さと申せましょう。それに対して2台ピアノ版は快速なホ長調。エネルギッシュな音楽で、変奏曲部分を締めくくるにはある意味ふさわしい絢爛たる響きをもっております。
続くフーガはきわめて規模の大きなもので、モーツァルトの旋律に基づく主題による二重フーガとなっております。そして終結部ではフーガの上にモーツァルトの主題が原型で再現し、クライマックスを築き上げます。

ここでは2台ピアノ版である「作品132a」を掲載しておりますが、原曲の第8変奏も割愛するには惜しい音楽なので、第8変奏に関してはピアノ連弾版を同時に掲載することといたしました。
多少なりともお楽しみいただければ幸いに存じます。


モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ 作品132a 
モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ 作品132から第8変奏 

◇あそびのピアノ連弾に戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:M.レーガー ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma