ドビュッシー/「牧神の午後」への前奏曲
(Claude Debussy : Prélude à "l'Après-midi d'un Faune")

1894年12月22日、フランス国民音楽協会のコンサートでひとつの新作が初演されました。演奏時間10分にも満たないこの作品は、しかしながら、旧来の音楽界に新風を送り込み、20世紀音楽の扉を開くという巨大な役割を果たしたのでございます。
これがまだ世間的には無名に近かったドビュッシーの出世作、『「牧神の午後」への前奏曲』でございました。

1890年、28歳のドビュッシーはローマ大賞受賞以来、主としてピアノ小品や歌曲の分野で創作活動を行っておりました。当時ドビュッシーは著名な詩人ステファヌ・マラルメ(1842〜1898)の主催する「火曜会」の常連でしたが、マラルメはこの新進作曲家の作品に興味を抱いており、自作の「牧神の午後」を舞台化する計画が持ち上がった際、ドビュッシーにその音楽化を依頼しました。この計画は最終的に詩の朗読、舞踊も加えた三部構成の舞台作品として具体化し、ドビュッシーは各部分の音楽として「前奏曲」「間奏曲」「敷衍曲」を担当することになりました。
1892年に「前奏曲」を書き始めたドビュッシーですが、作曲は遅々として捗らず、ようやく1894年に「前奏曲」が完成してみると、ドビュッシー自身続けて「間奏曲」「敷衍曲」を書く必要性を実感できなくなり、舞台化の計画も立ち消えとなりました。
こうして「前奏曲」のみで単独の管弦楽曲として成立した「『牧神の午後』への前奏曲」ですが、その斬新な意匠にもかかわらず、この曲は初演からきわめて好評で(※)、ドビュッシーは新音楽の旗手として、一躍時の人となったのでございます。
※1894年12月の初演では大きな反響はなく、翌1895年の再演で好評を得たという説もございます。

ドビュッシー最初のオーケストラのための傑作と申すべき「『牧神の午後』への前奏曲」ですが、「あそびの音楽館」では、管弦楽の色彩感が重要な要素となっているこの曲を、モノクロームなピアノの音色でお聴きいただくことにいたしました。
この作品には、2台のピアノのためにドビュッシー自身が編曲したものと、ラヴェルがアレンジした1台のピアノのための四手連弾版がございます。ドビュッシーの手に成るものは初演直後の1895年に出版され、一方ラヴェルの編曲は、はるか後年の1909年の出版でございます。作曲者自身による編曲が2台のピアノという比較的余裕のある編成ながら、意外にあっさり目にアレンジされているのに対して、ラヴェルの場合ははるかに制約の大きい1台ピアノでありながら、よりオーケストラの原曲に近いものの再現を目指しているように思えるのは興味深いところでございます。
いずれにしましても、たいへん豪華な編曲者による2つの「『牧神の午後』への前奏曲」、お楽しみいただければ幸甚ですm(__)m


2台のピアノのための「牧神の午後」への前奏曲(ドビュッシー編曲) 
   (Prélude à "l'Après-midi d'un Faune" for 2 Pianos by C. A. Debussy) 
ピアノ連弾(四手)のための「牧神の午後」への前奏曲(ラヴェル編曲) 
   (Prélude à "l'Après-midi d'un Faune" for Piano 4 Hands by M. J. Ravel)

◇あそびのピアノ連弾に戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:C. ドビュッシー/M. ラヴェル ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma