信時 潔/六つの舞踊曲
(Kiyoshi Nobutoki : 6 charakteristische Tänze)

滝廉太郎をわが国におけるクラシック音楽の第1世代とするなら、山田耕筰と信時潔は第2世代と申してよろしいでしょう。山田耕筰も信時潔も、東京音楽学校で学び、その後ドイツに留学、帰国後は日本の芸術音楽の発展に力を尽くしたという点では同じですが、山田耕筰がオペラやオーケストラ曲から童謡まで、幅広いジャンルで精力的に活動したのに対して、信時潔は声楽曲を中心に創作し、地味な教育活動に軸足を置いていたという点では大きく相違しております。

信時潔といえば、なんといっても、「海ゆかば」の作曲者としての知名度が高いと申せましょう。「海ゆかば」は日本放送協会(現NHK)の委嘱で1937年に国民歌謡として書かれましたが、太平洋戦争中に大本営発表をはじめとする戦争報道に多用されたため、今日でも微妙にバイアスのかかった作品となっております。また、代表作である1940年作の大作カンタータ「海道東征」も、紀元2500年祝典曲として初演されたため、終戦後しばらくは上演の機会をもちませんでしたが、1960年代から少しずつ演奏されるようになってきております。

さて、ピアノのための「六つの舞踊曲」は1932年、信時潔49歳の年に発表された組曲でございます。この年、東京音楽学校に作曲部が新設されましたが、信時は作曲部の設立に尽力しており、以後、ここで教鞭をとることになります。
信時には珍しい器楽作品でございますが、もしかすると、作曲部新設にあたって、教育的な意味も含めた創作だったのかもしれません。

全曲は曲名のように6つの舞曲で構成されておりますが、一般的な踊りの音楽という意味での「舞曲」という感じはあまりいたしません。もちろん、リズミカルな曲もあるのですが、全体としては、舞曲というより、ある雰囲気をもった小品を集めた曲集、という気がいたします。
また、ヨーロッパの伝統的な語法を終生尊重し続けた信時潔らしく、時折不協和な響きや日本ふう、あるいは東洋ふうの響きが聞かれるものの、全体としては機能和声的で穏健な書法で貫かれております。


第1曲:序曲/遠くの囃子(I. Introduktion : Festliche Klänge in der Ferne) 
第2曲:気まぐれ(II. Grille) 
第3曲:まじめな緩舞(III. Ernster langsamer Tanz) 
第4曲:田舎囃子(IV. Ländliche Klänge) 
第5曲:子供まじりの連舞(V. Gemischter Tanz mit Kindern) 
第6曲:古風な行列(VI. Festzug im alten Still) 

六つの舞踊曲・全曲連続再生 

◇あそびのエトセトラに戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma