中田 喜直/北の歌
(Yoshinao Nakada : Songs from the Northland)

歌曲や童謡と並んで、合唱曲は中田喜直作品の重要なジャンルでございます。
歌曲の作曲家として中田喜直がデビューしたのは1947年。最初の合唱曲「午後の庭園」は、早くもその翌年に書かれております。この曲は混声合唱のためのものですが、その後、女声合唱のための小品が次々に書かれ、1953年にそれらを集めた「女声合唱曲集・T」が出版されました。ここに収められたものには流麗で親しみやすい作風の曲が多く(「夏の思い出」や「雪の降るまちを」もこの曲集に含まれます)、中田喜直の名を広めるのに大いに貢献したと思われます。
1953年にフェリス女学院の音楽科で教鞭を執るようになってからは、フェリス女声合唱団(現在の日本女声合唱団)とのかかわりの中でいくつかの女声合唱曲が生まれます。これらを集めた1960年出版の「女声合唱曲集・U」では、書法の複雑化・表現力の拡大深化が著しいことが明瞭に見てとれます。

1961年、最初の合唱組曲「海の構図」が発表されました。混声合唱とピアノのためのこの作品は、4つの楽章が動機的に緊密に構成され、合唱曲でありながら交響的なスケール感をもつ意欲作でございます。
「海の構図」に始まる1960年代は、中田喜直の合唱音楽の最盛期となりました。
1963年、女声合唱組曲「美しい訣れの朝」を作曲。この作品は中田喜直の女声合唱曲の作曲家としての地位を不動のものにしたと申せましょう。
翌64年に混声合唱組曲「昇天」、65年に女声合唱組曲「みえないものを」を発表。
66年の混声合唱組曲「都会」は、「海の構図」と並んでこの作曲家の混声合唱曲の代表作となっております。
67年に女声合唱組曲「北の歌」、68年に混声合唱組曲「アビと漁師」を作曲。
そして69年、女声合唱組曲「蝶」が生まれます。この作品は中田喜直の合唱音楽の頂点を極めたと申してよく、その後に書かれた作品を見ても、「蝶」に匹敵するものはついに現れなかったといわざるを得ないのではないでしょうか。

さて、ここで取り上げます「北の歌」は、女声合唱組曲の最高傑作である「蝶」のひとつ前の作品でございます。和田徹三(1909〜99)の詩に基づいており、詩の中で地名は明示されてはおりませんが、北海道の四季をテーマにした音楽でございます。
作曲者自身は、次のように書いております(カワイ出版「北の歌」の序文から引用)。

「この曲は、昭和42年度芸術祭参加作品として、NHK札幌中央放送局より委嘱を受け作曲したものである。(中略)
詩は北海道の四季を美しく歌ったもので、最初にこの詩を見た時、これは女声合唱のための組曲として、最適であると思い、和田さんに一部書き足してもらったりして、完成した。はじめは『女声合唱とピアノのための組曲』としたように、ピアノが非常に重要である」

このように、北の土地の四季をモティーフとしていることもあり、この曲は2年後の「蝶」のような尖鋭な手法はあまり用いられず、この時期の作品としてはやや地味な存在のように見えますが、ここで繰り広げられる音楽の瑞々しさ、流麗さは特筆すべきであり、聴きこめばたいへんに魅力に溢れる音楽かと存じます。
全曲は第1曲の冒頭に提示される基本動機で統一されており、構成の面でも充実した作品でございます。鮮烈な印象では「蝶」には及ばないとはいえ、中田喜直の合唱組曲最盛期を代表する傑作のひとつと申して差し支えないのではないでしょうか。

「あそびの音楽館」では、この曲をピアノ五重奏の形で再現してみることにいたしました。本来三声を基調とする女声合唱のパートを弦楽四重奏に編曲するのは、原曲の透明感やデリケートな感性を損なうことおびただしいとは存じますが、その点につきましては弊サイトの限界ということでご勘弁願いますm(__)m
なお、歌詞につきましては、著作権の関係でご紹介できないことをあらかじめご了承いただきたく存じますm(__)m


 女声合唱組曲「北の歌」・全曲連続再生 

 第1曲:北の春 (Spring in the Northland)  ◇記
 第2曲:夏の海 (A Summer Sea)  ◇記
 第3曲:北の秋 (Autumn of the Northland)  ◇記
 第4曲:雪の魔法 (The Snowy Magic )  ◇記

◇あそびのエトセトラに戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲・MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma