マーラー/交響曲第5番 嬰ハ短調
(Gustav Mahler : Symphony No.6 in A minor)

よく知られておりますように、マーラーの創作中期は第5交響曲から始まります。この時期に書かれた第5・第6・第7の3つの交響曲は、純粋に器楽のために作曲されている点でも特徴的でございます。

この曲は1901年の夏の間にスケッチされましたが、最初に書かれたのは第3楽章のスケルツォだったそうでございます。翌年の夏にオーケストレーションを施して完成された第5交響曲は、葬送行進曲に始まり、歓喜の終楽章で終わる、ベートーヴェン以来の暗→明という見通しのよい道筋で、1970年代に始まったマーラー・ブームでは、とりわけ人気のある作品となりました。

1901年の11月、マーラーはツェムリンスキーに作曲を学んでいた22歳のアルマ・シントラーと出会い、電撃的に婚約、翌1902年3月に結婚いたします。この結婚でマーラーは私生活の上で安定感を得ることができ、創作力も向上。この時期はおそらくマーラーにとって、もっとも幸福な日々だったと申してよろしいでしょう。
1902年の夏に第5交響曲を仕上げるにあたって、アルマは第4楽章のスコアを浄書したと伝えられており、また、彼女は終楽章のコラールについて「いかにも、な感じで聴いていて恥ずかしい」と述べたのに対し、マーラーは「ブルックナーだってコラールを書いてるじゃないか」と返したそうで、新婚生活を楽しんでいる様がうかがわれます。
初演は完成から2年後の1904年、ケルンでマーラー自身の指揮によって行われました。

第5交響曲は5つの楽章から成りますが、全曲は作曲者自身によって3部に分けられております。第1・第2楽章は第1部、第3楽章は第2部、そして第4・第5楽章が第3部でございます。
スケルツォを中央に置いた構成で、第1部が悲愴な雰囲気を湛えているのに対し、第2部で気分を一新、第3部は明るい音楽で、終楽章は歓喜の響きで終わります。ちなみに、スケルツォを中央に置いた5楽章構成は、マーラーでは第1(初稿)、第2、第5、第7の各交響曲で採られております。
第1楽章は3連符のファンファーレで始まりますが、これはベートーヴェンの第5交響曲を想起させると同時に、メンデルスゾーンの「結婚行進曲」のパロディのようにも聞こえます。この部分を書いている時、マーラーはまだアルマに出会っておりませんので、「結婚行進曲」の連想は私の個人的な妄想ではありましょうが、この数年後にアルマの浮気でこの夫婦の仲がこじれることを思いますと、なんだか予言のような気がして妙な感じでございます。
第2楽章は第1楽章と楽想的に強いつながりがあり、また、終わり近くに現れるコラールは、終楽章への布石となっております。
第3楽章は巨大なスケルツォで、この種の音楽ではマーラーの書いた最大のものでしょう。
第4楽章は有名なアダージェットで、ヴィスコンティの映画「ヴェニスに死す」で使われ、非常によく知られるようになりました。第5楽章は第4楽章から切れ目なく演奏され、フーガを多用した輝かしいフィナーレとなっております。

マーラー自身はこの交響曲をピアノのために編曲しておりませんが、ここではシュトラーダル(August Stradal:1860〜1930)の手に成る2台ピアノ用のスコアを用いました。
ピアノで演奏された第5交響曲、お楽しみいただければ幸甚でございます。


交響曲第5番 嬰ハ短調・全曲連続再生 

第1楽章/葬送行進曲:正確な速度で(I. Trauermarsch : In gemessenem Schritt) 
第2楽章/嵐のような動きで(II. Stürmisch bewegt) 
第3楽章/スケルツォ:力強く、速すぎず(III. Scherzo : Kräftig, nicht zu schnell) 
第4楽章/アダージェット:非常に遅く ― 第5楽章/ロンド・フィナーレ 
    (IV. Adagietto : Sehr langsam - V. Rondo - Finale : Allegro giocoso)

◇「あそびの音楽館」に戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:A. シュトラーダル ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma