平尾 貴四男/ピアノ・ソナタ
(Kishio Hirao : Sonate pour piano)

ピアノ・ソナタは平尾貴四男唯一のピアノ独奏曲でございます。作曲は1948年、作曲者41歳の年で、太平洋戦争の敗戦後、室内楽を中心とする小編成の作品に力を入れていた時期にあたります。

平尾貴四男の夫人はピアニストの平尾妙子で、この曲は妙子夫人によって初演されているのですが、夫人自身の書いた文章(「作曲家との対話」の平尾貴四男の項)によれば、作曲当時夫人は夫の女性関係で悩んでおり、精神的に不安定な状況にあったそうでございます。
平尾貴四男ももちろん苦しんでおりまして、このソナタはそのような悩ましい状況に終止符を打つための魂の告白として作曲されたものだということでございます。そうした事情を裏書きするように、楽譜の冒頭には作曲者による以下のような意味深長な言葉が記述されております。

  第1楽章
    苦悩と不安に戦う魂のたたかい
    一瞬かがやく叙情的な陽光も暗い嵐の雲で覆われてしまう
  第2楽章
    緩やかに歌われる魂の告白
    次第に高潮し、又、淋しく終わる
  第3楽章
    速度と運動のめまぐるしい世界

渡された曲を弾いた妙子夫人は心が晴れたということでございますから、どうやらこの曲によって、平尾家の家庭生活の危機は回避されたようでございます^^

全曲は3つの楽章で構成されており、また、第1楽章の導入部に現れる動機やこの楽章の第2主題の動機が各楽章の楽想の核として用いられていることなど、全体として伝統的な形態を守った音楽でございます。第1楽章と第3楽章はソナタ形式で、特に第1楽章では第1主題、第2主題の性格の対照がきわめて鮮やかでございます。
書法は修行したパリ音楽院で身につけた近代フランス音楽的な緻密なものでございますが、同時にどの楽章にも独特の日本的情緒のようなものが漲っておりまして、平尾貴四男らしいユニークな風格を感じさせます。
晩年の平尾貴四男が魂をこめて書き上げたこの曲、20世紀の日本人作曲家によるピアノ・ソナタの代表作のひとつと申して過言ではない傑作と申せましょう。

(文中敬称略)

 ピアノ・ソナタ:全曲連続再生 

 第1楽章:ポコ・レント ― アレグロ・モルト (I. Poco lento - Allegro molto) 
 第2楽章:レント (II. Lento) 
 第3楽章:アレグロ・アッサイ (III. Allegro assai) 

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◇背景画像提供:フリー写真素材Canary様
◇編 曲・MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma