グラズノフ/交響曲第5番 変ロ長調 作品55
(A. K. Glazunov : Symphony No.5 in B flat major, Op.55)

19世紀ロシアを代表する交響曲作家といえば、チャイコフスキー、ボロディン、グラズノフの3人になると思われますが、チャイコフスキー没後の数年間(ボロディンは1887年、チャイコフスキーは1893年に死去)は、こと交響曲に関してはグラズノフの独り舞台だったと申してよろしいでしょう。
1890年代にグラズノフは4つの交響曲を書いておりますが、1893年から1896年にかけて書かれた第4・第5・第6の3つの交響曲は、グラズノフが作曲家としてもっとも充実していた時期を代表する作品群となっております。
1893年の第4交響曲は、西欧ふうの技法を駆使しながらも、豊かな抒情性とロシア情緒に満ちた音楽でしたが、1895年の第5交響曲では、グラズノフは堅固な構成と多声的な技法で、より西欧的、もっといえばドイツ・ロマン派的な交響曲の構築を目指したように思われます。そうした方向性はとりわけ第1楽章に顕著で、おそらくベートーヴェンの第3交響曲からの連想で、この交響曲が「英雄」というニックネームを奉られる原因になっていると考えられます。またこの曲は「ワーグナーふう」と評されることもありますが、今日の目から見て、第5交響曲は真正のグラズノフ作品と申すしかございません。
節度をもち、端正に書かれながらも、ロシア的な国民性は失われていない音楽。そこにはチャイコフスキーのような感情の振幅や、ボロディンのような壮大さはなく、それだけにいささかインパクトに欠けるきらいはございますが、一方に西欧音楽とロシア音楽とのバランスのとれた職人芸があり、それがグラズノフの持ち味なのでございます。

第5交響曲は4つの楽章から成り、ソナタ形式の両端楽章の間にスケルツォと緩徐楽章が配置される、という構成をとっております。
序奏付きの第1楽章はとりわけドイツふうの音楽で、ロシア音楽にしばしば見られる旋律重視の傾向を排し、動機労作的な手法で堅固な構成感を醸そうとしております。対位法的な処理が随所に見られ、第1主題と第2主題が同時に奏されることもございます。
第2楽章のスケルツォ以降は、次第にロシアふうの色合いが強くなり、最終楽章ではいかにもロシアの祭典というような音の饗宴になって全曲を閉じております。

第5交響曲は先輩のタネーエフ(タニェエフ、Sergei Ivanovich Taneyev:1856〜1915)に献呈されておりますが、この曲をピアノ連弾用に編曲したのもタネーエフで、ここでの演奏もタネーエフの手に成るものでございます。
多少なりともお楽しみいただければ幸いに存じます。


交響曲第5番変ロ長調 作品55・全曲連続再生 

第1楽章:モデラート・マエストーソ ― アレグロ(I. Moderato maestoso - Allegro) 
第2楽章:スケルツォ;モデラート(II. Scherzo ; Moderato) 
第3楽章:アンダンテ(III. Andante) 
第4楽章:アレグロ・マエストーソ(IV. Allegro maestoso) 
◇あそびのピアノ連弾に戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:S. タネーエフ ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma