エルガー/チェロ協奏曲 ホ短調 作品85
(Edward Elgar : Violoncello Concerto in E minor, Op.85)

1910年前後、世間的な名声の頂点にあったエルガーですが、その後数年の間に急速に人気が下がり、第1次世界大戦の始まった1914年頃には早くも過去の大家という位置づけになっておりました。
ところが1918年から19年にかけて、3つの室内楽作品(ヴァイオリン・ソナタ、弦楽四重奏曲、ピアノ五重奏曲)を集中的に書き上げ、再び存在感を示します。これらの作品では、かつての重厚長大な作風は払拭され、簡潔で静謐な趣きが前面に出ており、老成したエルガーの書法が注目されました。
3つの室内楽は批評家からもかなり高い評価を受け、次の作品に期待が高まっていた1919年10月、新作のチェロ協奏曲が初演されます。

エルガーは1918年の初春にチェロ協奏曲に手を染めますが、その後は3つの室内楽曲に集中し、夏になってからチェロ協奏曲の筆を進めました。
作曲は順調に進み、およそ2か月で脱稿。1年後の初演の段取りもできました。
こうして初演されたチェロ協奏曲ですが、初演は失敗に終わりました。その大きな原因として、事前に充分な練習時間がとれず、レヴェルの低い演奏になったと伝えられております。
ただ前述したように、当時の一般聴衆にとって、エルガーの音楽は興味の対象から外れており、一見して地味なこの協奏曲では世間的に大きなアピールができなかったということかもしれません。

この曲が一般によく知られるきっかけとなったのは1961年、当時まだ16歳のチェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレによる演奏でした。天才少女と愁いを帯びたエルガーの音楽。この取り合わせは大きな話題を呼び、彼女がその後もこの曲を積極的に演奏し続けたことで、エルガーのチェロ協奏曲はドヴォルザークの作品と並んでこのジャンルの有名作となりました。

エルガーのチェロ協奏曲は、協奏曲としては異例の4楽章構成となっております。また、明確なソナタ形式の楽章をもたない点も特徴でございます。さらに申せば、2つの交響曲やヴァイオリン協奏曲で示されたエルガーの大作志向はこの曲にはまったく見られず、簡潔で淡々とした澄明な作風が、この作曲家の到達点を示しております。
第1楽章と第2楽章は連続して演奏され、その限りではブルッフやドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を思い起こさせますが、エルガーの場合は緩やかな第1楽章とスケルツォふうの第2楽章が接続されており、形の上ではシベリウスの第5交響曲に近いものがございます。
第3楽章は短い緩徐楽章で、もっとも力作というべき第4楽章に続きます。
第1楽章の冒頭に現れる楽想は全曲を統一する循環主題的な性格をもち、第3楽章を除くすべての楽章に姿を現しております。

ここでは、この作品をピアノ連弾の形に編曲してみました。多少なりともお楽しみいただければ幸甚でございます。


チェロ協奏曲 ホ短調 作品85・全曲連続再生 

第1楽章:アダージョ ― モデラート/第2楽章:レント ― アレグロ・モルト 
     
(I. Adagio - Moderato / II. Lento - Allegro molto) 
第3楽章:アダージョ(III. Adagio) 
第4楽章:アレグロ ― モデラート ― アレグロ・ノン・トロッポ 
     
(IV. Allegro - Moderato - Allegro non troppo) 

◇あそびのピアノ連弾に戻ります◇
◇編曲・MIDIデータ作成:Jun-T ◇録音:jimma