ドヴォルザーク/自然と人生と愛 (Antonín Dvořák : Nature, Life, and Love) |
1891年、50歳の年を迎えたドヴォルザークは、ひとつの大がかりな作品の着想を得ます。それは3曲の序曲からなる一種の組曲で、それぞれの曲が「自然」、「人生」、「愛」を表現するというものでございました。
3月31日、ドヴォルザークは最初の序曲のスケッチに着手いたします。この曲は4月18日にスケッチを完了し、7月8日にはオーケストレーションも終えて完成されました。ドヴォルザークの構想ではこれは「自然」を表現した曲に相当するはずでしたが、ドヴォルザーク自身は適切な曲名をなかなか決めることができず、友人に宛てた8月1日の手紙でも「私はこれをなんと名づけていいかいまだにわからない」と書いております。
初演は4月28日、ドヴォルザーク自身の指揮で行われました。この時のプログラムでは、曲名は「自然」、「人生(チェコの謝肉祭)」、「愛(オセロ)」となっております。 |
この序曲集は、本来「自然と人生と愛」というタイトルをもっています。しかしながら、各曲は個々に自立した作品でもありますので、こんなふうにしたらどうかと思うのですが。
序曲ヘ長調(自然の中で)作品91 もっといい考えがおありでしょうか?それとも、単に「序曲」として放っておいた方がいいでしょうか?しかしこれはある程度は標題音楽なのですが。
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「ある程度は標題音楽」というのは、ひょっとするとドヴォルザークのブラームスに対する遠慮を示しているのかもしれません。この当時、絶対音楽派と標題音楽派が現在では想像もつかないほど論争を繰り広げておりまして、ブラームスは絶対音楽派の代表選手に祭り上げられておりました。そのブラームスを恩人としているドヴォルザークのこと、堂々と「これは標題音楽でござい」とはいえなかったのではないでしょうか。 それはともかく、結局この序曲集は翌1894年の3月、それぞれ異なった作品番号を付されて出版されております。最終的な曲名は、全曲を指すものとしては「自然と人生と愛」、個々には「自然の中で」、「謝肉祭」、「オセロ」と決定されました。 3つの序曲はそれぞれ「自然」、「人生」、「愛」を象徴しておりますが、どの曲もソナタ形式に基いた絶対音楽的手法(※注)で書かれている一方、すべての曲に次のようなモットーが現れ、本来の構想であった組曲あるいは序曲3部作としての内的統一が図られております。
このモットーは第1の序曲「自然の中で」では主要主題として用いられております。その意味で「自然のモットー」と申してもよろしいかもしれません。「謝肉祭」と「オセロ」がこのモットーで関連しているということは、結局ドヴォルザークにとって、「人生」も「愛」も自然の一部、すべての根源は自然にあり、ということを表しているのではないでしょうか。
現在、この3曲が序曲3部作としてまとめて演奏される機会はめったにございません。第2の序曲「謝肉祭」のみが、その直接的な活気溢れる魅力で親しまれているだけでございます。しかしながら、他の2曲もこの時期のドヴォルザークの円熟した魅力に満ちた作であり、等閑視されるには惜しい佳作と申せましょう。
「自然と人生と愛」は、スークとネトバルの手に成る全曲のピアノ連弾用の編曲譜が出版されておりますが、その楽譜は入手できませんでした。 |
序曲「自然の中で」(Amid Nature, Op.91) | |
序曲「謝肉祭」(Carnival, Op.92) | |
序曲「オセロ」(Othello, Op.93) | |
序曲3部作「自然と人生と愛」・全曲連続再生 | |
◇あそびのピアノ連弾に戻ります◇ | |
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集様 | |
◇編 曲・MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma |