ドビュッシー/管弦楽のための「映像」
(Claude Debussy : Images pour Orchestre)

ドビュッシーには「映像」と題する曲集が3つございますが、そのうちの2つ、すなわち第1集と第2集はピアノ独奏のために書かれたもので、ドビュッシーのピアノ作品中の傑作としてしばしば演奏されております。一方、「映像」の第3集は管弦楽のためのもので、ピアノのためのものと同様3曲からなっておりますが、こちらは第2曲の「イベリア」を除くと、演奏される機会はめったにないと申してよろしいでしょう。
本来、独立した3つの曲を集めたもの、というスタンスで書かれた管弦楽のための「映像」ですから、「イベリア」が単独で演奏されるのに疑問はありませんが、他の2曲があまりにも等閑視されているのは少々もったいない気がいたします。

さて、1903年、当時オペラ「ペレアスとメリザンド」で楽壇を沸かせていた41歳のドビュッシーは、デュラン社と新作出版の契約を取り交わします。それは「映像」と題する各6曲から成るピアノのための作品集で、ひとつのセットに3曲のピアノ曲と3曲の2台ピアノまたはピアノと管弦楽のための曲が組み込まれるという、あまり例を見ない演奏形態の曲集になる予定でございました。
ところが、その後紆余曲折があり、結局「映像」は各3曲のピアノ独奏のための曲集として、1905年にまず第1集が、1907年に第2集が書き上げられました。
当初、第1集の後半3曲として予定されていた「イベリア」「悲しきジーグ」「ロンド」の各曲は、新たに純粋の管弦楽曲として管弦楽のための「映像」に組み直され、曲名も「悲しきジーグ」は「ジーグ」に、「ロンド」は「春のロンド」に変更されました。
作曲は「映像」第2集に続いて行われ、まず1908年に「イベリア」、翌1909年に「春のロンド」が書き上げられましたが、「ジーグ」の完成は1911年まで持ち越されました。この時期ドビュッシーは多忙だったのか、それとも体調でも悪かったのか、「ジーグ」のオーケストレーションには友人の作曲家で指揮者のアンドレ・カプレ(1878〜1925)の手を借りた、という話もございます。

管弦楽のための「映像」の3曲は、それぞれに特定の国の民謡・舞曲の要素を取り入れて作られております。「ジーグ」はスコットランド、「イベリア」はスペイン、「春のロンド」はフランス、といった具合で、ドビュッシーはこの曲集でフランスも含めてエキゾチズムを創作のテーマにしているようでございます。異国趣味はドビュッシーの初期の作品から時折見受けられますが、これはその集大成と申してもよろしいでしょう。
中でも力のこもっているのは「イベリア」で、この曲はそれ自身3つの楽章で構成されており、管弦楽作品としては「海」以降最大の力作と申して過言ではないでしょう。

管弦楽のための「映像」は、ピアノ曲のオーケストレーションやバレエなど舞台のための作品を除きますと、純粋な管弦楽のための作品としては、ドビュッシー最後の作品になります。その意味でも、もっと広く聴かれてよい作品集ではないか、という気がいたします。

ここで取り上げましたピアノ連弾のための編曲は、前述のアンドレ・カプレの手に成るものでございます。カプレは晩年のドビュッシーの創作活動に大いに協力した人で、バレエ「おもちゃ箱」や「聖セバスティアンの殉教」の演奏会用組曲のオーケストレーションも担当しております。
ピアノ連弾による管弦楽のための「映像」、お楽しみいただければ幸甚でございますm(__)m


ジーグ(Gigues) 
イベリア(Iberia)  
 第1楽章:街の道と田舎の道(Par les Rues et par les Chemins) 
 第2楽章:夜の匂い ― 第3楽章:祭りの日の朝 
       (II. Les Parfums de la Nuit - III. Le Matin d'un Jour de Fête)
 「イベリア」・全曲連続再生 
春のロンド(Rondes de Printemps) 

管弦楽のための「映像」・全曲連続再生  

◇あそびのピアノ連弾に戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:A. カプレ ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma