子供の領分
(Children's Corner)

1903年、41歳のドビュッシーは富裕な銀行家の妻エンマ・バルダックと知り合い、二人は恋に落ちてしまいます。ドビュッシーにも1899年に結婚した妻リリーがあり、今日でいう「不倫」の関係になったわけでございますね^^;
翌年、ドビュッシーはエンマとともに駆け落ちし、絶望したリリーが自殺を図るという騒ぎになり、結局ドビュッシーはリリーと離婚してエンマと再婚いたします。
このゴシップでリリーに同情が集まり、ドビュッシーは多くの友人を失うことになりましたが、その代償ででもあるかのように、彼に初めての子供が授かります。
クロード=エンマと名づけられたこの一人娘をドビュッシーはこよなく愛し、「シュウシュウ(キャベツちゃん)」と呼んでかわいがりました。「子供の領分」は愛娘「シュウシュウ」のために、ドビュッシーが心をこめて書き上げた作品でございます。

作曲は1906年から1908年、ドビュッシー44歳から46歳の期間でございます。この作品が完成したとき、「シュウシュウ」は3歳だったことになりますね^^
全曲は6つの小品から成っており、各曲の原題は珍しく英語で書かれております。これは妻のエンマの英国趣味の影響だということでございますが、第2曲「Jimbo's Lullaby」の「Jimbo」が本来は「ジャンボ(Jumbo)」だったり(ドビュッシーは「Jumbo」と書いたのですが、誤植が見逃されたまま出版されたそうです)、第3曲の「Serenade of the Doll」が英語の語感としては「Serenade for the Doll」の方が適切であろうと思われるなど、やや変てこな点もございます。まぁ、ご愛嬌というところでございましょうか^^

「子供の領分」という曲名ではございますが、子供が弾いて楽しむという類の曲ではなく、かつて子供だった大人が聴いて童心に帰る、という趣向の音楽で、「シュウシュウ」に献呈されてはおりますものの、やはり大人のための音楽と申すべきかと思われます。
実際、肩肘張った書き方はされていないものの、これまでドビュッシーの開拓してきたさまざまな音楽語法がさり気なく織り込まれ、親しみやすさと高踏的な趣味が絶妙に融合された、円熟期のドビュッシーの傑作のひとつとなっております。

(2007.2.1〜2.4)

「子供の領分」・全曲連続再生 

グラドゥス・アド・パルナッスム博士(Doctor Gradus ad Parnassum) 
象の子守唄(Jimbo's Lullaby) 
人形へのセレナード(Serenade of the Doll) 
雪は踊っている(The Snow is Dancing) 
小さな羊飼い(The little Shepherd) 
ゴリウォーグのケークウォーク(Golliwogg's Cake-Walk) 

◇「ドビュッシー/ピアノ作品集」に戻ります◇
◇背景画像提供:フリー写真素材Canary様
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma