ブラームス/2台のピアノのためのソナタ ヘ短調 作品32b
(Johannes Brahms : Sonata for 2 Pianos in F minor, Op.34b)

弦楽四重奏とピアノのためのピアノ五重奏曲という曲種は、19世紀ロマン派の時代に大きく花開いたジャンルで、シューベルト(この場合、編成がちょっと違いますが)からショスタコーヴィチまで、いろいろな作曲家が名作・佳作を残しております。これらのうち、19世紀に書かれたものに限定して傑作を取り上げると、シューマン、フランク、ブラームス、ドヴォルザーク、フォーレなどの名が挙がるでしょう。とりわけシューマン、フランク、ブラームスの作品は、「三大〜」というくくり方を使うなら、「19世紀三大ピアノ五重奏曲」と申してもよろしいかもしれません。

20歳代のブラームスは、作品8のピアノ三重奏曲第1番を皮切りに、弦楽六重奏曲第1番(作品18)、2つのピアノ四重奏曲(作品25・26)と、優れた室内楽作品を書いてまいりましたが、30歳を前にして、青年期の締めくくりのような力作として、ヘ短調の弦楽五重奏曲を完成しました。1862年、ブラームス29歳の年でございます。
ところが、実際に演奏してみますと、予期していたような演奏効果が上がらなかったため、ブラームスはこの曲を取り下げてしまいます。
弦楽五重奏曲としては破棄されたとはいえ、作品の音楽的価値には自信のあったブラームスは、これを「2台のピアノのためのソナタ」として書き直すことにしました。1864年に書き上げられたこのソナタは、ブラームスとしても納得のいく出来となりました。
この年、ブラームスは周囲の勧めもあって、このソナタをさらにピアノと弦楽四重奏のために編曲し、ピアノ五重奏曲に仕上げました。これは演奏効果の点で決定的に優れており、ブラームスは翌1865年に作品34として出版いたしました。こうして紆余曲折の末、ブラームス唯一のピアノ五重奏曲が生まれたのでございます。
しかしながら、「2台のピアノのためのソナタ」も捨てがたいと感じていたブラームスは、1871年、作品34bとして、このソナタを出版しました。こうして後世の聴衆には、このヘ短調の作品34が、ふたつの形態で残されたのでございます。個人的には、失敗作とされる弦楽五重奏の版も残してほしかったところですが、これはまぁ、ないものねだりということになりましょう。
上記のようなわけで、この「2台のピアノのためのソナタ」は、ピアノ五重奏曲のアレンジではなく、むしろ原曲と申せましょう。とはいえ、ピアノ五重奏曲としての評価が非常に高いこともあり、知名度の点ではとうてい五重奏版には及びません。しかしながら、2台のピアノのための作品としては希少価値があり、今日でも演奏される機会に恵まれております。

全曲は4つの楽章から構成されており、このジャンルの作品としては大規模な部類に属します。耳に馴染んだピアノ五重奏版に比べ、音色の多彩さという点では一歩も二歩もひけをとりますが、緊密な構成や豊かな楽想など、この時期のブラームスの最上の作品のひとつとして、充分に聴きごたえのある曲と申せましょう。
「2台のピアノのためのソナタ」、お楽しみいただければ幸甚でございます。


2台のピアノのためのソナタ ヘ短調 作品34b・全曲連続再生 

第1楽章/アレグロ・ノン・トロッポ(I. Allegro non troppo) 
第2楽章/アンダンテ、ウン・ポーコ・アダージョ(II. Andante, un poco Adagio) 
第3楽章/スケルツォ:アレグロ(III. Scherzo : Allegro) 
第4楽章/フィナーレ:ポーコ・ソステヌート ― アレグロ・ノン・トロッポ 
       (IV. Finale : Poco sostenuto - Allegro non troppo)

◇「あそびのピアノ連弾」に戻ります◇
◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma