ボロディン/チェロ・ソナタ ロ短調
(Sonata for Violoncello and Piano in B minor)

ボロディンは化学者と作曲家の二足のわらじを履いておりました関係で、寡作で有名でございます。しかしながら、室内楽に関しては、幼少期からピアノとフルート、やや長じてからはチェロを達者に弾いたこともあり、若い頃からの曲を集めますと、比較的多数の作品を残しております。
とはいえ、アマチュアとして、仲間内で演奏して楽しむことを目的とした作品が大多数のため、数はそれなりにあっても、未完成曲が相当数に上っております。
ボロディン唯一のチェロ・ソナタであるこの曲も、残念ながら第2楽章までで中断されておりますが、作曲が1860年(ボロディン27歳)と、作曲家としてのデビューに近い時期に書かれただけあって、なかなか聴き応えのある作品に仕上がっているのではないかと愚考いたします。

ところでこの曲は、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番(BWV.1001)のフーガ主題を基本主題としております。
ボロディンとバッハというと、なんだかちぐはぐな取り合わせという感じがいたしますが、実はボロディンはバロックや古典派の音楽に少年時代から馴染んでおりまして、その体験は円熟期の作品のバックボーンになっていると申しても過言ではございません。
後年の第1弦楽四重奏曲でもベートーヴェンの第13弦楽四重奏曲から主題を借用しておりますし、いわゆる「ロシア五人組」の中でただ一人、交響曲をはじめとする構成的な音楽を得意にしていた背景には、やはりこうした古典音楽の影響があったのではないかと思われます。

この曲の楽譜は作曲から120年以上も経た1982年になって、ようやくジムロック社から出版されました。ただし第3楽章のみは、残されたボロディンの手稿から、作曲家のミハイル・ゴルトシュタイン(1917〜89)が独自に作曲したものでございます。
ゴルトシュタインによれば、第3楽章の手稿には「すべての主要主題と楽章の構想についてのメモ」が残されており、それに基づいて「ボロディンのスタイルで」作曲したということでございます。
楽譜を見てみますと、第1楽章の主題(バッハの主題)が3拍子で力強く華やかに展開されており、循環形式ふうに全曲を構成する意図の明確な興味深い音楽になっておりますが、なにしろ最近の作ですので、著作権の関係からこの楽章を割愛しなければならないのが残念でございます(>_<)


 チェロ・ソナタ ロ短調・全曲連続再生 

 第1楽章:アレグロ (I. Allegro) 
 第2楽章:パストラール:アンダンテ・ドルチェ (II. Pastorale:Andante dolce) 

◇あそびのエトセトラに戻ります◇
◇背景画像提供:フリー写真素材Canary様
◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma