ベートーヴェン/「フィデリオ」のための序曲集
(Ludwig van Beethoven : Overtures for "Fidelio")

ベートーヴェンは唯一のオペラ「フィデリオ」のために、合計4曲の序曲を残しております。これはこのオペラがベートーヴェンの予期に反してなかなか成功を収めることができず、改訂のたびに新たに序曲を作り直したからでございます。

ベートーヴェン自身はこのオペラの題名を「レオノーレ」にすることを希望しておりましたが、劇場側は「フィデリオ」を主張、結局オペラは「フィデリオ」として1805年に初演されました。このとき序曲として書かれたのは今日「レオノーレ」序曲第2番として知られる音楽でした。
ベートーヴェン自身の指揮による初演は失敗に終わり、ベートーヴェンはオペラに大幅な改訂を施し、3幕構成から全2幕に変更して翌1806年に再演します。このときもベートーヴェンはオペラの題名を「レオノーレ」に変更することを申し入れましたがあえなく却下。それはともかく、この改訂版のために書き下ろした序曲がもっとも有名な「レオノーレ」序曲第3番でございます。この曲は序曲第2番を推敲したような音楽で、共通の楽想に立脚しながら、より緊密な構成をもち、演奏効果も抜群で、今日でもコンサート用の序曲として頻繁に演奏されております。

さて、再演はそこそこ成功し、翌年プラハで「フィデリオ」上演の話が持ち上がります。序曲が大規模にすぎると考えたベートーヴェンは、プラハ上演のためにそれまでより小規模な序曲を書き下ろしました。ところが、プラハでの上演は立ち消えになり、新作の序曲もお蔵入りとなって、初演されたのはベートーヴェン没後の1828年。出版が遅れたため、138という大きな作品番号が付けられておりますが、作曲は当初1805年と誤認され(事実は1807年)、「レオノーレ」序曲第1番とナンバリングされてしまいました。

その後、上演されることもなく忘れられかけた「フィデリオ」ですが、1813年の戦争交響曲「ウェリントンの勝利」でベートーヴェンの音楽が大ブレイク、その流れの中で「フィデリオ」再演の話が持ち上がります。今回はベートーヴェンも「レオノーレ」を主張することもなく、1814年に「フィデリオ」は無事再演にこぎつけ、大成功を収めることができました。
このときベートーヴェンは新たに序曲を作曲、これが今日も上演に使用されている「フィデリオ」序曲でございます。この曲はこれまで書かれた「フィデリオ」のための序曲中もっとも簡潔なものですが、オペラの開始の音楽としてはきわめて妥当なものと申せましょう。

ここで使用しておりますのはウルリヒ(Hugo Ulrich;1822〜1872)の手に成るもので、四手のピアノ連弾のためにアレンジされております。
ピアノで演奏された「フィデリオ」の序曲集、お楽しみいただければ幸甚でございます。


 「レオノーレ」序曲第1番 作品138("Leonore" Overture No.1, Op.138) 
 「レオノーレ」序曲第2番 作品72a("Leonore" Overture No.2, Op.72a) 
 「レオノーレ」序曲第3番 作品72b("Leonore" Overture No.3, Op.72b) 
 「フィデリオ」序曲 作品72("Fidelio" Overture, Op.72) 

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◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲:H. ウルリヒ ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma