ベートーヴェン/ラズモフスキー四重奏曲 作品59
(Beethoven : String Quartets for Razumovsky, Op.59)

弦楽四重奏曲はベートーヴェンにとって、交響曲・ピアノソナタと並ぶ重要なジャンルでございます。初期に6曲、中期に5曲、後期に5曲と、創作の各時期にほぼ同数の作品が書かれております。
3曲の「ラズモフスキー四重奏曲」は1806年、ベートーヴェン36歳の年に作曲された、中期の傑作のひとつです。第4交響曲、第4ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲などと同じ年の作品で、このラインナップを見るだけでも、「傑作の森」の時期におけるベートーヴェンの旺盛な創作力が窺えます。

アンドレイ・ラズモフスキー伯爵(Andrey Kirillovich Razumovsky;1752〜1836)はウクライナ出身でウィーン駐在のロシア外交官で、自分でもヴァイオリンを達者に弾く音楽愛好家でした。伯爵は弦楽四重奏曲集の作曲をベートーヴェンに依頼し、それに応えて生まれたのが作品59の3曲でございます。これらは弦楽四重奏曲第7番から第9番にあたり、「ラズモフスキー四重奏曲」として知られるようになりました。なお、作曲を依頼するにあたり、ラズモフスキー伯はロシアの旋律を用いることを求めたため、ベートーヴェンは2曲にロシア民謡を使用しております。

「ラズモフスキー四重奏曲」は弦楽四重奏曲の歴史に新生面を開いた重要な曲集で、ベートーヴェンの大胆かつ野心的な意欲作と申せましょう。
第7番ヘ長調は3曲中もっとも長大な作品で、すべての楽章がソナタ形式で書かれ、とりわけ展開部とコーダの拡張に瞠目すべきものがございます。なお、終楽章にはロシア民謡に基づく主題が使われます。
第8番ホ短調は一転して簡潔な書法に徹し、内省的な音楽となります。第7番の遠心力に対して求心的な作風で、これら2曲で大きなコントラストを成しております。ロシア民謡は第3楽章に現れますが、この旋律は後年ムソルグスキーが「ボリス・ゴドゥノフ」に利用したものでございます。
第9番は対位法を駆使した緊密な音楽で、とりわけ終楽章は「ラズモフスキー四重奏曲」全体のフィナーレを成すと申してもよい雄大な音楽となっております。この曲にはロシア民謡は使われていないようです。

ここで扱っておりますスコアは、ウルリヒ(Hugo Ulrich;1827〜1872)およびヴィトマン(Robert Wittmann;1804〜?)によるピアノ連弾版に拠っております。
お楽しみいただければ幸甚です。


弦楽四重奏曲第7番ヘ長調 作品59-1(String Quartet No.7 in F major, Op.59-1)  
 第1楽章:アレグロ(I. Allegro) 
 第2楽章:アレグレット・ヴィヴァーチェ・エ・スケルツァンド 
    (II. Allegretto vivace e scherzando)
 第3楽章:アダージョ・モルト・エ・メスト ― 第4楽章:アレグロ 
    (III. Adagio molto e mesto - IV. Allegro)
 ◆弦楽四重奏曲第7番ヘ長調 作品59-1・全曲連続再生◆ 
弦楽四重奏曲第8番ホ短調 作品59-2(String Quartet No.8 in E minor, Op.59-2)  
 第1楽章:アレグロ(I. Allegro) 
 第2楽章:モルト・アダージョ(II. Molto adagio) 
 第3楽章:アレグレット(III. Allegretto) 
 第4楽章:フィナーレ/プレスト(IV. Finale ; Presto) 
 ◆弦楽四重奏曲第8番ホ短調 作品59-2・全曲連続再生◆ 
弦楽四重奏曲第9番ハ長調 作品59-3(String Quartet No.9 in C major, Op.59-3)  
 第1楽章:アンダンテ・コン・モート ― アレグロ・ヴィヴァーチェ 
    (I. Andante con moto - Allegro vivace)
 第2楽章:アンダンテ・コン・モート・クァジ・アレグレット 
    (II. Andante con moto quasi allegretto)
 第3楽章:メヌエット ― 第4楽章:アレグロ・モルト 
    (III. Menuetto - IV. Allegro molto)
 ◆弦楽四重奏曲第9番ハ長調 作品59-3・全曲連続再生◆ 

◇「あそびのピアノ連弾」に戻ります◇◇
◇編曲:H.ウルリヒ/R. ヴィトマン ◇MIDIデータ作成:Jun-T ◇録音:jimma