ベートーヴェン/交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」
(Beethoven : Symphony No.6 in F major, Op.68 "Pastrale")

34歳で第3交響曲を書き上げた頃から、ベートーヴェンの創作期はロマン・ロランのいう「傑作の森」に突入します。3つの交響曲(第4〜第6)、2つのピアノ協奏曲(第4・第5)、4つの弦楽四重奏曲(第7〜第10)、第3チェロ・ソナタ、5つのピアノ・ソナタ(第22〜第26)、ヴァイオリン協奏曲、序曲「コリオラン」、オペラ「フィデリオ」(第2稿まで)、合唱幻想曲など、数え上げればきりがないほどの名作・傑作が次々に生み出されます。
Beethoven 「田園」の名で親しまれている第6交響曲は、第5交響曲完成から少し遅れた1808年の秋に書き上げられました。従来の説では、第5と第6の作曲は同時並行的に進められたとされていましたが、最近の研究では、第6が本格的に作曲されたのは第5がほぼ完成してからだったということになるようでございます。

「傑作の森」の数々の作品の中でも、第5と第6の2つの交響曲の世間への浸透度は別格で、200年間にわたってこれほどまでに親しまれてきた交響曲は他にございません。この2曲は、ベートーヴェンの代表作にとどまらず、古典派から現代にまでわたって、交響曲というジャンルそのものの代表作とさえいえるのではないでしょうか。

公的な初演は1808年の12月22日、ウィーンで行われました。このコンサートでは「田園」の他に第5交響曲、第4ピアノ協奏曲、合唱幻想曲なども演奏され、歴史的に見ればずいぶんと豪勢なプログラムだったわけですが、コンサートはベートーヴェンの生涯最悪といえるほどの大失敗。落ち込んだベートーヴェンは、一時ウィーンから撤退することすら考えたということでございます。
ちなみに、この初演では、現在の第5が第6、「田園」は第5交響曲とナンバリングされておりました。これはどうやらプログラム構成の都合上だったようでございますが(「田園」が第1部の初めに演奏され、現在の第5は第2部の初めに置かれていた)、もしこのときのままの番号で定着していたら、「ベートーヴェンの奇数交響曲・偶数交響曲」というような仕分けは成り立たなかったことになりますね。

さて、この作品には、ベートーヴェンの交響曲としては唯一標題が付けられ、また、各楽章にも作曲者自身によるタイトルが与えられております。ただし、ベートーヴェンとしては、この交響曲が単なる自然描写の音楽と捉えられることを恐れ、全曲の標題としては「田園交響曲」としながらも、「音画よりも感情の表現」という注釈を付けております。
また、それぞれの楽章のタイトルですが、最近の研究によって、ベートーヴェンが本来考えていたのは以下のようなものだということが判明したそうです。

第1楽章:田舎に着いたときに人の心に目覚める心地よく晴れ晴れとした気分。
第2楽章:小川のほとりの情景。
第3楽章:田舎の人々の楽しい集い。
第4楽章:雷、嵐。
第5楽章:羊飼いの歌。嵐のあとの、慈しみに満ちた神への感謝と結びついた気持ち。

この交響曲については、あまりにも有名曲でございますから、これ以上あらためて何か書き加えることもございません。「あそびの音楽館」では、この曲を2台ピアノ用にJun-Tが編曲したものを公開することにいたしました。
原曲の趣きを再現するにはまことに貧弱なアレンジではありますが、万が一お楽しみいただければ幸甚でございます。

(2015.7.4〜7.28)

交響曲第6番ヘ長調 作品68「田園」・全曲連続再生 

第1楽章/アレグロ・マ・ノン・トロッポ(I. Allegro ma non troppo) 
第2楽章/アンダンテ・モルト・モッソ(II. Andante molto mosso) 
第3楽章/アレグロ ― 第4楽章/アレグロ ― 第5楽章/アレグレット 
       (III. Allegro - IV. Allegro - V. Allegretto)

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◇背景画像提供:自然いっぱいの素材集
◇編 曲・MIDIデータ作成:Jun-T ◇録 音:jimma