ヴォーン・ウィリアムズ/田園交響曲 (Ralph Vaughan Williams : A Pastoral Symphony) |
レイフ・ヴォーン・ウィリアムズは20世紀前半のイギリス音楽界の重鎮でございます。あらゆるジャンルに膨大な作品を残しておりますが、中でも9曲の交響曲でイギリスを代表する交響曲作家のひとりに数えられております。
「田園交響曲」は作曲順では3番目の交響曲で、1918年から21年(完成時作曲者49歳)にかけて書かれ、晩年の1952年(80歳)に改訂されたものでございます。 一世代前のエルガーや、後の世代のウォルトン、ブリテンなどに比較しますと、ヴォーン・ウィリアムズの音楽にはローカルな色合いが顕著な気がいたします。たとえば、作曲家で指揮者のコンスタント・ランバートはその著書(Music Ho!)の中で、ヴォーン・ウィリアムズの「田園交響曲」について、おおよそ以下のようなことを書いております。 |
エルガーの交響曲を認めないチェコ人に対して、われわれは、「それでもあなたは、この交響曲のオーケストレーションの見事さを認めないわけにはいかんでしょう」と主張することができる。 しかし、ヴォーン・ウィリアムズの「田園交響曲」を認めないチェコ人に対しては、「なるほど、そうでしょうなあ」というしかない。 |
この場合の「なるほど、そうでしょうなあ」は、「外国人のあなたには、この曲の良さはわからんでしょうなあ」という意味に解して間違いないと思われます。すなわちランバートは、ヴォーン・ウィリアムズの音楽の真価はイギリス人にとっては自明でも、それが海を越えて受け容れられることは難しいと考えていたのでございましょう。 ランバートが上のようなことを書いてから約80年、ヴォーン・ウィリアムズの名は充分に浸透していると思われますが、作品がそれに比例して愛好されているかといえば少々疑問でございます。そこにはやはり、越えるのが難しいローカリズムの壁があるのかもしれません。 とはいえ、ヴォーン・ウィリアムズの音楽のもつ郷愁を帯びた響きには、一度虜になると病みつきになる魅力がございます。
「田園交響曲」は、すべての楽章がモデラート系の穏やかなテンポを基調とする、一見起伏に乏しい平坦な音楽で、タイトルから予想されるような、のどかで楽しげな曲ではございません。同じ「田園」でも、ベートーヴェンの描いたオーストリアの明るい田園とはえらい違いでございまして、こちらの「田園」は、どんよりとした曇り空の下に広がる荒涼とした平原、という感じでございます。
4つの楽章は古典的交響曲の各楽章にいちおう対応してはおりますが、先に申し上げましたように交響的アレグロの楽章はなく、全曲中唯一活発な動きを見せるスケルツォの第3楽章でさえテンポは中庸を保っております。
「あそびの音楽館」では、このユニークな作品を2台のピアノ用(第4楽章のみはソプラノ独唱と2台のピアノ用)にアレンジいたしました。 |