シベリウス/ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47
(Jean Sibelius : Violin Concerto in D minor, Op.47)

ベートーヴェンの大作以降、19世紀にはヴァイオリン協奏曲の代表作として、メンデルスゾーン、ブルッフ、ブラームス、チャイコフスキーなどの作品が現れましたが、20世紀のこのジャンルでもっともよく知られた曲は、シベリウスのヴァイオリン協奏曲で間違いないかと思われます。

シベリウスがヴァイオリン協奏曲を最初に着想したのは1899年、第1交響曲や「フィンランディア」を作曲した年のことでございました。この年の9月、シベリウスは妻のアイノに「ヴァイオリン協奏曲のための素敵な主題を見つけた」と語り、また、友人のアドルフ・パウルに宛てた手紙で「僕はヴァイオリン協奏曲について考え続けている」と書いています。しかし、他の作品の作曲が優先され、また知名度の高まりとともに身辺も多忙になり、ヴァイオリン協奏曲は大きな進展を見せませんでした。
1902年には、友人でパトロンでもあったアクセル・カルペランが従妹に宛てた手紙でシベリウスの創作の近況について「彼はカンタータやバレエ曲、ピアノ小品など多くを手がけているが、その中にはヴァイオリン協奏曲のスケッチも含まれる。彼は時間を有効に使っている」と書いております。いくつもの作品と同時進行で、ヴァイオリン協奏曲の構想が進められていることがわかります。ちなみにこの時期には第2交響曲が発表され、シベリウスの名声も大きく向上しておりました。
1903年の秋になると、シベリウスはヴァイオリン協奏曲の作曲が進展しており、作品はウィリー・ブルメスターに献呈する予定であることを公表しました。そして、12月には第1・第2楽章を完成し、終楽章のスケッチが完了したことをカルペランに伝えました。
1904年の初め、シベリウスは熱狂的にヴァイオリン協奏曲の作曲に打ち込み、ヴァイオリンでさまざまな主題を弾きまくっていることがアイノの手紙でわかります。アイノはカルペランに宛てて、「彼の頭の中は目が回るほど豊富な主題に溢れ、彼は一晩中起きていてヴァイオリンを弾き、生き生きとした魅力的な主題を次々に生み出しています」と書いています。

シベリウスはヴァイオリン協奏曲に傑作の手ごたえを感じ、ヴィクトル・ノヴァチェクをソリストとして自身の指揮で2月8日にヘルシンキで初演しました。
ソリストがブルメスターでなかったのは、ブルメスターのスケジュールの折り合いがつかず、新作の発表を急いだシベリウスがノヴァチェクを代役に立てたからでした。しかし、この人選は誤りで、ノヴァチェフの演奏技術はこの協奏曲の要求する水準に満たず、初演は不成功に終わりました。同じメンバーで2度目の演奏もされましたが、やはり評判は芳しくありませんでした。
作品に対しては、以下のような批評が見られました。

〇シベリウスは型にはまった名人芸に屈していて、それが作品をだめにしている(フリーディン)
〇悪くない作品だが、手を加える余地が少なくない(カティラ)
〇緩徐楽章はすばらしいが、終楽章は技術が困難なのに弱々しい(メリカント)

一方、ブルメスターは初演者から外されたにもかかわらず、この作品に好意を抱き「私はこれまでの経験と情熱のすべてをこの曲に捧げて、11月に演奏する」と公言しましたが、シベリウスは自作をいったん撤回することを決意します。6月にカルペランに宛た手紙で、シベリウスは「私はこの協奏曲を取り下げます。第1楽章はもちろん、他の部分も書き直さなければなりません」と書いております。

1905年の春、シベリウスはヴァイオリン協奏曲の改訂版を完成させました。この改訂版では、全曲、とりわけ第1楽章にはきわめて大きな修正が施され、多様性と引き換えに緊密な有機性が付与されました。
この改訂版はカレル・ハリーシュの独奏、リヒャルト・シュトラウスの指揮でベルリンで初演。またもやソリストを外されたブルメスターは激怒し、以後この作品を演奏することはなかったそうでございます。
この改訂版はその後も演奏され続け、1930年代には20世紀の代表的なヴァイオリン協奏曲として定着し、現在に至っております。

全曲は3楽章より成り、基本的には通常のロマン派的協奏曲の形をとっておりますが、この曲できわめて特徴的なのは第1楽章で、カデンツァが展開部の機能をもち、このような構成はそれまでの協奏曲作品にない特異なものと申さねばなりません。
ちなみに、シベリウスの妻のアイノは初稿の方を高く評価しており、「私はヴァイオリン協奏曲の初版の方が好きです。パパは批評家たちにひどくけなされたので変えてしまいました。名人芸の部分がたくさん省かれました。今の協奏曲は簡単になりました」と語っております。

ここでは、この曲を2台ピアノ用に編曲したものを掲載しております。多少なりともお楽しみいただければ幸甚でございます。


 ヴァイオリン協奏曲ニ短調 作品47・全曲連続再生 

 第1楽章:アレグロ・モデラート(I. Allegro moderato) 
 第2楽章:アダージョ・ディ・モルト(II. Adagio di molto) 
 第3楽章:アレグロ、マ・ノン・タント(III. Allegro, ma non tanto) 

◇「あそびのピアノ連弾」に戻ります◇
◇編曲・MIDIデータ作成:Jun-T ◇録音:jimma